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大絶画さんの公開ページ レビュー一覧 2ページ

レビュー

  • ダンテ『神曲』講義 上

    平川祐弘

    ダンテとともに地獄を巡る

    ダンテの『神曲』はキリスト教文学の最高峰されます。河出文庫には平川訳が収録されていますから挑戦された方も多いでしょう。
    ただ訳注が充実した平川訳でも日本人に『神曲』は取っ付きにくいと思います。本書は40年以上『神曲』に向き合った著者による講義であり最良の副読本です。
    キリスト教文学の枠組を超えイタリア文学そして比較文学の面白さが堪能できます。『神曲』の予習にあるいは復習に。(2024/01/04)

  • ダライ・ラマ『菩提心の解説』

    ダライ・ラマ14世テンジン・ギャツォ 著 / マリア・リンチェン 訳

    究極の菩提心

    小乗と大乗を分けるのが菩提心(利他心、求道心)、そして顕教と密教を分けるのは究極の菩提心の有無になるでしょう。
    本書は龍樹作とされる『菩提心の解説』をダライ・ラマ猊下が解説されています。
    さて本書で説かれる究極の菩提心とは微細な意識のレベルで見た菩提心ということになるでしょう。これは龍樹の中観の実戦ともいえます。
    最後に究極の菩提心は猊下ですら達していないといいます。我々、凡夫では想像すらできない境地です。しかし弛まず精進することに意味があります。『菩提心の解説』を通して究極の慈悲が見えるはずです。(2023/12/28)

  • キリストにならいて -イミタチオ・クリスチ-

    由木康 訳

    修養の書

    『キリストにならいて』の翻訳はいくつ存在します。自分の所属する宗派や書店などで手に取って選ぶのが一番とは思いますが、あえて薦めるなら教文館の由木訳です。
    訳者の学識はもちろんですが、氏の信仰が本作が持つ霊性を引き出していると思います。
    私はキリスト教徒ではありませんが、読み返す度本書が持つ情熱・克己心に身が引き締まる思いがします。自己修養にお勧めです。(2023/12/26)

  • 大衆運動 新訳版

    エリック・ホッファー 著 / 中山元 訳

    大衆運動の本質

    本作は大衆論の古典です。
    初版は1951年ですが、大衆運動の担い手たちの分析は古びていません。それは中山氏の新訳でいっそうはっきりしたでしょう。
    さて大衆運動は何度となく社会を動かしてきました。それは歴史が証明しています。しかしそれは肯定的な成果だけではありません。ホッファー自身、それを理解しており、いかに運動を健全なものにするか、それが本書の狙いです。
    ひるがえって現代のSNS上など様々なムーブメント(運動)が起きています。それが炎上に発展することもあります。私たちは余計な火の粉を被らないためにホッファーの分析に耳を傾けましょう。(2023/12/22)

  • 歓喜天 信仰と俗信 新装版

    笹間良彦

    悪神から善神へ

    インドの破壊神シヴァの息子ガネーシャは日本では聖天または歓喜天と呼ばれます。
    像頭の造形が目立ちますが、中には女尊と一対になった双身像が存在します。これは聖天の破壊的な力を女人になった十一面観音が抑えているという構造で多くの寺院で秘仏となっているようです、
    そしてこういった双身像のモデルは男女一対になったミトゥナが元になっておりアジアの各地で見られます。それはヒンドゥー教のシャクティ信仰を反映したもので、人間の欲望とくに性欲の昇華です。
    ただこういった背景があるためか秘仏になっているため著者といえど歓喜天信仰には不明な点があるようです。とはいえ本書を通し歓喜天信仰の奥深さ、人間の生命(欲望)の讃歌と一筋縄ではいかない歓喜天のご利益・哲学が理解できるはずです。(2023/12/18)

  • 密教世界の構造 空海『秘蔵宝鑰』

    宮坂宥勝

    すべてがここにある

    空海は主著『十住心論』は人間の十段階に分け、その最終段階を密教的な世界と位置づけました。そして『秘蔵宝鑰』はその要約版です。
    空海の理論はヘーゲルの『精神の現象学』のように人間精神の発展を描いていますが、より複雑で重層的です。またすべての仏教そして非仏教を包括しています。著者も指摘していますが、こういった全人的な思想がおよそ1200年前に存在していたことに驚きを隠せません。空海は仏教のみならず日本文化に多大な影響を与えましたが、当然の結果といえるでしょう。
    本書を片手に『秘蔵宝鑰』に挑戦して下さい。そこにあなたが望むすべてがあります。(2023/12/17)

  • 暮らしのなかの仏教箴言集 法句経入門(ちくま学芸文庫 ミ-7-3)

    宮坂宥勝

    東方の聖書

    『法句経(ダンマパダ、真理のことば)』は仏教の古層に位置する聖典で、簡潔で滋味に富んだ内容は欧米で「東方の聖書」と賞賛されました。
    本書では古代インドの経済・政治的背景を解説しつつ『法句経』の普遍的な精神を述べています。
    現代は情報過多な時代で多くの邪見に満ちています。邪見に陥らず澄んだ心で時代を見据えるためにインド・中国そして日本と伝わった『法句経』の精神に立ち帰るべきなのかもしれません。(2023/12/17)

  • 空海全集 全8冊

    弘法大師空海全集編集委員会 編集

    密教の道へ

    第4巻「実践篇」のレビューです。
    内容は空海の師・恵果から口伝されたとされる『秘蔵記』、真言行者の戒(心構え)を説いた『三昧耶戒序』ほか、日本人による初のサンスクリット語解説であろう『梵字悉曇字母并釈義』と在家・一般向けというよりは出家・行者向けといまえす。
    とはいえどの作品も「真言行者は他者のために行動せよ」と利他・慈悲の精神を謳っており一般読者にも得るものが大きいでしょう。(2023/12/11)

  • 浄土真宗の〈聖教〉 『安心決定鈔』を読む

    佐々木隆晃

    機法一体

    大法輪閣版のレビューです。
    『安心決定鈔』は蓮如が「40年以上読んでも読み飽きない」「まるで黄金を掘り起こすような聖教(聖典)」と絶賛していますが、その由来はよくわかっていません。著者はおそらく浄土宗西山派の人間だろうといわれています。
    本来、浄土真宗とは関係のない聖教をなぜ蓮如は重要視したのか。あるいは真宗に欠けた要素を求めたのか、それは読者に委ねます。
    さて由来はどうあれ、本書には漫然と生きる我々に訴えかけるものがあります。それは機(私たち)と法(阿弥陀如来)が一体であり、つねに死を意識し阿弥陀仏にすがるよう説いています。
    現代において「死」は遠のいたように思えます。しかし数年前のコロナ感染症、国外に目を向ければ戦争・テロと「死」がすぐ側まで近くにあることが実感できます。浄土宗・真宗の教徒でなくとも読んでいただきたいです。(2023/12/09)

  • 蓮如上人御一代記聞書

    細川行信 村上宗博 足立幸子

    念仏即信心

    蓮如をはじめ門人たちの言行録です。原文、現代語訳・解説という流れになっており古文を読み慣れていない方にも取っ付きやすくなっています。
    さて読み進めていく中で気付くのは蓮如が「信心」を重要視していることです。「浄土真宗は念仏だけ唱えればいいのではないのか」と疑問を持つ方もいるでしょうが、蓮如自身、信心から念仏が生まれさらに信心を強くすると考えていたようです。とくに門弟たちにいたずらに他宗派を攻撃しないよう呼びかけていたことも印象的です。これは真宗や浄土宗が「本願ぼこり(念仏を唱えれば悪事をしても許される考える人)」への対処に苦労してきたことと無関係ではないでしょう。
    私は他宗派ではありますが、蓮如の態度には学ぶべき点が多々ありました。(2023/12/05)

  • 現代語訳 南海寄帰内法伝

    義浄撰 著 / 宮林昭彦 加藤栄司 訳

    釈迦の正則を求めて

    現在、法藏館文庫に収録されておりますので文庫版のレビューです。訳文を見直したそうなので小さな文字が苦でない方はそちらがいいでしょう。

    中国の僧であった義浄によるインド僧生活記録です。
    食事や着物、トイレの作法など仔細に記録されています。
    たびたび中国仏教(とくに道宣ら律宗)への批判が挟まれることから、彼が釈迦の正則(正しい規則)を求めていたことがうかがえます。それは「根本説一切有部律(根本有部律)」の翻訳にも生かされたことでしょう。
    さて仏教は「戒・定・慧」の三学兼修と謳っていますが、「戒(律)」は軽視される傾向にあります。それは「根本有部律」翻訳後も変わらなかったようです。
    仏教の実践を行う上で「戒律」の問題は避けられません。とくに日本仏教は戒律の研究が不足しているといわれ、いま一度義浄の言葉に耳を傾ける時なのかもしれません。(2023/11/26)

  • チベット仏教・菩薩行を生きる―精読・シャーンティデーヴァ『入菩薩行論』

    ゲシェー・ソナム・ギャルツェン・ゴンタ 西村香 訳注

    菩薩道に入る

    『入菩薩行論』の名が表わすように本作では菩薩の実践を説いています。
    それは徹底的な利他の精神に貫かれており、読者は尻込みしてしまうかもしれません。しかし弛むまず、そして完璧に実践できなかったとしても諸仏に懺悔することで確実に菩薩の階段を昇ることができるはずです。
    内容も(中観帰謬論証派を解説した9章を除けば)非専門家でも理解できるはずです。
    本書をお供に菩薩の道へと入りましょう。(2023/11/17)

  • 東洋の合理思想

    末木剛博

    円志向から楕円志向

    「東洋は西洋に比べ合理的思考が発達しなかった」といわれます。一面では正しいものの「東洋論理学は取るに足らない」と考えるのは誤りです。
    ウィトゲンシュタイン研究で知られる著者は合理的思考を古典記号論理学と弁証法と定義し、インド論理学とくに仏教論理学(因明)、そして天台教学や華厳経学、儒教、墨家、老荘思想、易経と論じていきます。
    その過程で西洋論理学にも負けない論理体系が構築されたことが明らかになりますが、同時に高度で抽象的な論理が構築できなかった理由も明らかになります。
    しかし現実において西洋合理思想にも限界は見えています。西洋の円志向に代る楕円志向とは何か。ご確認下さい。(2023/11/11)

  • インド人の論理学 -問答法から帰納法へ

    桂紹隆

    インド人の討論術

    一般に「東洋人は西洋人に比べ合理的な思考が不得意だ」といわれます。しかし『ミリンダ王の問い』において僧侶ナーガセーナはミリンダ王は堂々と議論を行いました。これはインドにおいて多くの知識人(沙門)たちが議論をくり返し技術を磨いたことと無関係ではないでしょう。
    前半部ではインドの討論のルールが記されており、現在でも納得できる点があります。と同時にインドでは目的志向の論理学であったためか、西洋ほど高度な記号論理学は発展しなかったといえるかもしれません。
    最後によく「日本人は議論が下手だ」といわれます。場合によっては「日本語は非合理的な言語だから」と筋違いな指摘がなされます。
    しかし先人たちが否定してきたように日本語はけっして非合理的な言語ではありませんし、単純に相手(主に欧米)のやり方を知らない、そして何よりも議論に慣れていないことが大きいでしょう。およそ1800年前にミランダ王と討論したナーガセーナのように我々自身インドの論理学そして問答法を学ぶべきと考えます。(2023/11/09)

  • 弁才天信仰と俗信 第三版

    笹間良彦

    サラスヴァティーから弁財天へ

    「日本を代表する女神は誰か」と問われたら弁財天と答える方は多いのではないでしょうか。
    弁財天の源流をたどるとインド神話のサラスヴァティーに行き着きます。漢訳では弁才天とされ、とくに福の神であることを強調する場合「弁財天」と表記されます。
    水の神であり音楽の神であるサラスヴァティーがいかに福の神・弁財天として日本の風土に受け容れらたのか、豊富な資料や図絵から理解できます。(2023/11/04)

  • 大乗仏典 12 如来蔵系経典

    髙崎直道 訳

    如来蔵とは

    大乗仏教は大乗(大きな乗り物)というように誰もが仏陀(覚者)になれると説きます。その根拠はすべてのものは仏陀になる可能性(仏性)を持つという“如来蔵”思想です。
    本書に収録されている『如来蔵経』『不増不減経』『勝鬘経』(如来蔵三部経)以外は華厳、宝積、経集と出典も様々ですが、多くの比喩を用いて「如来蔵」を説明しようとしています。
    研究者の中には如来蔵をアートマン思想の残滓と見る方もしますが、大乗が多くの信徒に開かれた点は否定できません。
    般若経典が説く「空」とともに大乗仏教の二大支柱でありぜひ学びましょう。(2023/11/03)

  • 大乗仏典 7 維摩経・首楞厳三昧経

    長尾雅人 丹治昭義 訳

    大乗の入門

    本書に収録されている二経は大乗仏教初期に成立したと考えられます。そのためか部派(小乗)仏教とは異なった論理が展開され、十大弟子をはじめとする門弟たちが論破される様は痛快ですらあります。
    二経はどちらもチベット語訳からの重訳ですが(『維摩経』サンスクリット語原典が発見されたのは1999年)チベット語テキストが逐語訳であり長尾氏をはじめ翻訳者が学識が確かで格調高く読みやすい訳になっています。
    『維摩経』はとくに構成が素晴らしいだけでなく大乗仏教の理念が見事に描かれており『法華経』とともに仏教文学の頂点といえます。大乗仏教の入口に相応しいでしょう。(2023/11/03)

  • 梵網経の教え 今こそ活かす梵網戒

    船山徹

    菩薩の入口

    多くの宗派では「戒・定・慧」の三学を修めることが求められます。この場合の「戒」とは信徒の心構え(マナー、エチケット)といった意味です。また戒を定めることで信徒の指針が定まります。
    さて部派(小乗)仏教から大乗仏教に移る過程でこれまでの自利的な戒から利他的な戒が必要になりました。その利他的な戒=菩薩戒として本経『梵網経』に説かれる十重四十八軽戒が利用されるようになりました。
    菩薩戒を意識することで菩薩の生活がスタートするといえます。
    本書は下巻・菩薩戒の原文・現代語訳、成り立ち、解説も充実しており在家にも理解しやすくなっています。『梵網経』は中国撰述の偽経とされますが、その内容は世界に誇れるものです。あなたも菩薩の入口に足を進めましょう。(2023/10/28)

  • 南方仏教 基本聖典

    ウ・ウェーブッラ

    南方仏教の基本

    「基本聖典」とあるように日常で必要な経典がほぼ収録されています。在家それに出家を目指している方におすすめです。
    ただあくまで経典のみなので注釈は最小限で、内容は簡潔・明快ですが本書だけで解脱を目指すのは難しいと思います。
    とはいえこれだけ必要十分にテーラワーダ(上座部)仏教に触れられる書籍は希有ですので、日々の行いの反省にご活用下さい。(2023/10/22)

  • 空海「三教指帰」 ビギナーズ 日本の思想

    加藤純隆 加藤精一 訳

    空海の原点

    本作は儒教・道教・仏教を比較した作品で、空海の自伝的小説であります。
    若き空海がいかに三教を学ぶ過程で仏教の優位性を見出し大宗教家となったか。後年の『十住心論』や『秘蔵宝鑰』に通じる思想が展開されます。
    現代語訳も丁寧で、原文(書き下し文)も乗っておりますので空海の思想を学びたいという方におすすめです。(2023/10/17)

  • 新装版 密教の学び方

    宮坂宥勝

    密教の宇宙へ

    「密教とは何か?」この問いに「密教とは仏教の一部分(一宗派)」と答えることもできるし「密教とはすべての仏教を包括する教え」と考えることもできます。
    さて歴史上、2つの見方を明らかにしたのは空海です。現代でもダライ・ラマ猊下が「密教の指導者として上座部・顕教も学ぶ必要がある」とおっしゃっています。
    本書では包括的な視点から密教の成り立ち、そして未来への展望が描かれています。こういった視点を学ぶことでグローバルといいつつ汲々としている世界情勢を救う手立てが見つかるのではないかと考えます。(2023/10/13)

  • 涅槃への道 仏陀の入滅(ちくま学芸文庫 ワ-1-3)

    渡辺照宏

    仏陀の最期

    人の最期とくに偉大な宗教家の最期とは他宗派・他教徒にとっても関心事でありましょう。
    仏陀の最期についてはパーリ語経典や4種の漢訳などから知られます。現代からすれば神話的な記述はおよそ信じられないものですが、インドの伝統においていかなる意味を持つのか、そして当時の人々がいかに向き合ったのか、民俗学・宗教的な価値があります。
    同著者の『新釈尊伝』に比べやや学術的な嫌いはありますが、仏教を本質から理解した方におすすめです。(2023/10/08)

  • 新釈尊伝

    渡辺照宏

    釈尊伝の最高峰

    仏陀(釈尊)に限らず偉大な(とくに宗教的な)指導者の伝記には神秘的な事柄がともないます。こういった神話的な記述は「合理的でない」と無視される傾向にあります。
    しかし神話的な記述が比較的古層に存在し、弟子たちや人々にどのように受け入れられたのか民俗学的・宗教的に理解する上で重要です。「合理的でない」の一点で切り捨てることはその宗教の生命を断つことになります。
    本書は人間・仏陀ではなく宗教的指導者・仏陀(釈尊)を余すことなく・学術的にも確かに描いています。
    なお文庫版のあとがきで照敬氏が「父はインドに行ったことはなかったが、インドの状況はまさに本書の通りだった」と書いています。このことからも本書が釈尊伝の最高峰といえるでしょう。(2023/10/08)

  • 『涅槃経』を読む(岩波現代文庫 学術322)

    高崎直道

    如来の常住

    釈迦の臨終を描いた『大般涅槃経(以下、涅槃経)』は北本で40巻(南本36巻)にも渡る経典です。
    その思想は『法華経』の一乗思想を発展させた如来蔵思想、すなわち生きとし生けるものは仏性(仏となる性質)を持つ「一切悉有仏性」にあります。

    さてある人は「無我を説く仏教でなぜ我(仏性)を説くのか」と思われる人もいるでしょう。この点、インド伝統思想への回帰との批判が当初からあったようです。しかし『法華経』そして『涅槃経』を通して仏教の門戸が大きく開かれたことは無視できません。たとえば親鸞は『涅槃経』の一闡提成仏から教学を立ち上げました。

    『涅槃経』は原始仏教から見れば多くの問題をはらみます。しかしその思想はグローバルな世界を生きる我々に多くの示唆を与えます。(2023/10/02)

  • 密教 インドから日本への伝承

    松長有慶

    密教の相承

    密教において師から弟子への教えの伝達(相承)が重視されます。それは瓶から瓶へ水を一滴も漏らさず移すようなものと表現されます。
    本書は「相承」という観点から密教史を見直した一冊です。
    それは学術的に真偽を確かめるのではなく、また一つの宗派に注目してその正統性を問うのでもありません。密教に宿る宗教的精神を描くことにあります。
    なぜ龍猛(龍樹)が鉄塔から両部の経典を発見したという“神話”が必要だったのか、その意義が見えてきます。(2023/09/12)

  • 道元禅師のことば 「修証義」入門

    有福孝岳

    修証義入門

    明治時代、道元の主著である『正法眼蔵』を元に『修証義』が作られました。「修証義入門」と題した入門書・解説書は多々ありますが、一部を除きこの点を無視しているように思います。
    本書では『正法眼蔵』をはじめ多くの経典から一節一節を読解し曹洞宗のみならず仏教理解に貢献する内容になってます。
    また付録の現代語訳も必要以上に意訳されておらず、これから『修証義』を読もうという方におすすめです。(2023/08/30)

  • 仏説四十二章経・仏遺教経(岩波文庫 青307-1)

    得能文訳註

    説教の始まりと終わり

    『四十二章経』は初期に漢訳されたといわれる経典、『遺教経』はブッダの最期の教説とされるます。さらに『イ(氵に為)山警策』を加え、禅宗では「仏祖三経」と重用されています。
    さてどちらも高尚な哲学的論議は少なく一般的な教訓が中心となっています。物足りなく感じる方もおられるかもしれませんが、仏教は実践の宗教と考えた時、これほど相応しい経典はないでしょう。生活の中に仏道を見いだす禅宗において重用されたのも当然です。
    岩波文庫版は真文(漢文)と書き下し文のシンプルな構成で、修行のお供に相応しいと考えます。(2023/08/28)

  • 意識の形而上学

    井筒俊彦

    井筒哲学の到達点

    井筒氏といえばイスラム哲学など言語分析で有名ですが、本作は遺作であり、井筒哲学の到達点と読んでも過言ではありません。
    小書ではありますが、氏の比較思想・言語分析のエッセンス凝縮されており1度2度読んだ程度では理解できないでしょう。
    しかし読み重ねるごとに意識・言語の背後に存在する深遠な世界が理解出るはずです。(2023/08/20)

  • 大乗起信論

    宇井 伯寿、高崎 直道 訳注

    如来への道

    仏教には多くの論書が存在しますが、もっとも大乗仏教の発展に寄与したといっても過言ではないかもしれません。
    本作はいわゆる「如来蔵(仏になる可能性)」を説いた論書です。いかに煩悩という塵を拭い真如(さとり)達するかを説き、信仰を起こさせようというわけです。
    由来や漢訳に問題があるようですが、多くの文献と校正、高崎氏の現代語もあり読み通せると思います。まさに大乗仏教の入口に相応しい作品です。(2023/08/20)

  • 白隠禅師 夜船閑話・延命十句観音経霊験記

    伊豆山格堂

    禅の実践

    本書には内観法(禅の瞑想法)を説いた『夜船閑話』と「(延命)十句観音経」の効能を説いた『延命十句観音経霊験記』が収録されています。

    まず『夜船閑話』は白隠禅師が禅病(自律神経失調症)をいかに克服したかが書かれています。さて現代の高度情報化社会は人類史上初といっていいほど脳を酷使しています。原因不明の病に苦しんでいるという方も多いでしょう。
    そういった病にマインドフルネスが有効なことは知られていますが、本作は原点といっても過言ではありません。原典から学びたい方におすすめです。

    つぎに『延命十句観音経霊験記』はわずか十句・42文字の「十句観音経」の功徳を説いたものです。紹介されている説話はどこかユーモラスで自然と十句観音経を口にしたくなります。
    なお十句観音経の拡散に白隠禅師が努めたことは有名で「延命」の2文字も禅師の発案です。
    現世・来世の幸福を祈り読誦してみましょう。(2023/08/20)

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