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大絶画さんの公開ページ レビュー一覧 2ページ

レビュー

  • 涅槃への道 仏陀の入滅(ちくま学芸文庫 ワ-1-3)

    渡辺照宏

    仏陀の最期

    人の最期とくに偉大な宗教家の最期とは他宗派・他教徒にとっても関心事でありましょう。
    仏陀の最期についてはパーリ語経典や4種の漢訳などから知られます。現代からすれば神話的な記述はおよそ信じられないものですが、インドの伝統においていかなる意味を持つのか、そして当時の人々がいかに向き合ったのか、民俗学・宗教的な価値があります。
    同著者の『新釈尊伝』に比べやや学術的な嫌いはありますが、仏教を本質から理解した方におすすめです。(2023/10/08)

  • 新釈尊伝

    渡辺照宏

    釈尊伝の最高峰

    仏陀(釈尊)に限らず偉大な(とくに宗教的な)指導者の伝記には神秘的な事柄がともないます。こういった神話的な記述は「合理的でない」と無視される傾向にあります。
    しかし神話的な記述が比較的古層に存在し、弟子たちや人々にどのように受け入れられたのか民俗学的・宗教的に理解する上で重要です。「合理的でない」の一点で切り捨てることはその宗教の生命を断つことになります。
    本書は人間・仏陀ではなく宗教的指導者・仏陀(釈尊)を余すことなく・学術的にも確かに描いています。
    なお文庫版のあとがきで照敬氏が「父はインドに行ったことはなかったが、インドの状況はまさに本書の通りだった」と書いています。このことからも本書が釈尊伝の最高峰といえるでしょう。(2023/10/08)

  • 『涅槃経』を読む(岩波現代文庫 学術322)

    高崎直道

    如来の常住

    釈迦の臨終を描いた『大般涅槃経(以下、涅槃経)』は北本で40巻(南本36巻)にも渡る経典です。
    その思想は『法華経』の一乗思想を発展させた如来蔵思想、すなわち生きとし生けるものは仏性(仏となる性質)を持つ「一切悉有仏性」にあります。

    さてある人は「無我を説く仏教でなぜ我(仏性)を説くのか」と思われる人もいるでしょう。この点、インド伝統思想への回帰との批判が当初からあったようです。しかし『法華経』そして『涅槃経』を通して仏教の門戸が大きく開かれたことは無視できません。たとえば親鸞は『涅槃経』の一闡提成仏から教学を立ち上げました。

    『涅槃経』は原始仏教から見れば多くの問題をはらみます。しかしその思想はグローバルな世界を生きる我々に多くの示唆を与えます。(2023/10/02)

  • 密教 インドから日本への伝承

    松長有慶

    密教の相承

    密教において師から弟子への教えの伝達(相承)が重視されます。それは瓶から瓶へ水を一滴も漏らさず移すようなものと表現されます。
    本書は「相承」という観点から密教史を見直した一冊です。
    それは学術的に真偽を確かめるのではなく、また一つの宗派に注目してその正統性を問うのでもありません。密教に宿る宗教的精神を描くことにあります。
    なぜ龍猛(龍樹)が鉄塔から両部の経典を発見したという“神話”が必要だったのか、その意義が見えてきます。(2023/09/12)

  • 道元禅師のことば『修証義』入門

    有福孝岳

    修証義入門

    明治時代、道元の主著である『正法眼蔵』を元に『修証義』が作られました。「修証義入門」と題した入門書・解説書は多々ありますが、一部を除きこの点を無視しているように思います。
    本書では『正法眼蔵』をはじめ多くの経典から一節一節を読解し曹洞宗のみならず仏教理解に貢献する内容になってます。
    また付録の現代語訳も必要以上に意訳されておらず、これから『修証義』を読もうという方におすすめです。(2023/08/30)

  • 仏説四十二章経・仏遺教経(岩波文庫 青307-1)

    得能文訳註

    説教の始まりと終わり

    『四十二章経』は初期に漢訳されたといわれる経典、『遺教経』はブッダの最期の教説とされるます。さらに『イ(氵に為)山警策』を加え、禅宗では「仏祖三経」と重用されています。
    さてどちらも高尚な哲学的論議は少なく一般的な教訓が中心となっています。物足りなく感じる方もおられるかもしれませんが、仏教は実践の宗教と考えた時、これほど相応しい経典はないでしょう。生活の中に仏道を見いだす禅宗において重用されたのも当然です。
    岩波文庫版は真文(漢文)と書き下し文のシンプルな構成で、修行のお供に相応しいと考えます。(2023/08/28)

  • 意識の形而上学

    井筒俊彦

    井筒哲学の到達点

    井筒氏といえばイスラム哲学など言語分析で有名ですが、本作は遺作であり、井筒哲学の到達点と読んでも過言ではありません。
    小書ではありますが、氏の比較思想・言語分析のエッセンス凝縮されており1度2度読んだ程度では理解できないでしょう。
    しかし読み重ねるごとに意識・言語の背後に存在する深遠な世界が理解出るはずです。(2023/08/20)

  • 大乗起信論

    宇井 伯寿、高崎 直道 訳注

    如来への道

    仏教には多くの論書が存在しますが、もっとも大乗仏教の発展に寄与したといっても過言ではないかもしれません。
    本作はいわゆる「如来蔵(仏になる可能性)」を説いた論書です。いかに煩悩という塵を拭い真如(さとり)達するかを説き、信仰を起こさせようというわけです。
    由来や漢訳に問題があるようですが、多くの文献と校正、高崎氏の現代語もあり読み通せると思います。まさに大乗仏教の入口に相応しい作品です。(2023/08/20)

  • 白隠禅師 夜船閑話・延命十句観音経霊験記

    伊豆山格堂

    禅の実践

    本書には内観法(禅の瞑想法)を説いた『夜船閑話』と「(延命)十句観音経」の効能を説いた『延命十句観音経霊験記』が収録されています。

    まず『夜船閑話』は白隠禅師が禅病(自律神経失調症)をいかに克服したかが書かれています。さて現代の高度情報化社会は人類史上初といっていいほど脳を酷使しています。原因不明の病に苦しんでいるという方も多いでしょう。
    そういった病にマインドフルネスが有効なことは知られていますが、本作は原点といっても過言ではありません。原典から学びたい方におすすめです。

    つぎに『延命十句観音経霊験記』はわずか十句・42文字の「十句観音経」の功徳を説いたものです。紹介されている説話はどこかユーモラスで自然と十句観音経を口にしたくなります。
    なお十句観音経の拡散に白隠禅師が努めたことは有名で「延命」の2文字も禅師の発案です。
    現世・来世の幸福を祈り読誦してみましょう。(2023/08/20)

  • 六祖壇経

    中川孝

    見仏性

    「我々の中に仏となる性質(仏性)が存在する」といわれても納得できる人はごくわずかでしょう。
    しかし『壇経』を読むことで自然に納得できるのではないかと思います。
    六祖・恵能(慧能)が求めたのはまさに我々の中にある仏性でありました。仏性を気付くために必要なものはなにか?すべてはここに書かれています。(2023/08/20)

  • 十牛図 <禅の語録 16>

    梶谷宋忍 柳田聖山 辻村公一

    禅の入口・頂点

    本書に収録されている四作は古来より「禅宗四部録」と呼ばれてきました。
    この中に心のあり方(信心銘)、覚り(証道歌)、修行の階梯(十牛図)、坐禅の作法(坐禅儀)と全てがそろっています。
    禅を始めたいという方は何はともあれ「四部録」から入ることをおすすめします。(2023/08/15)

  • 禅関策進 <禅の語録 19>

    藤吉慈海

    弛まずに進め

    本書には多くの先師たちの言行が集められて、日本では白隠禅師が座右の書としていたことでも有名です。
    言葉の多くは厳しくもありますが、「少しずつでも精進(修行)を続ければ必ず覚りが得られる」とエールが述べられています。
    また編者・袾宏が浄土教にも通じていたことがあってか念仏への言及もあり他宗派の信徒にも興味深いでしょう。ぜひ精進のお供に。(2023/08/14)

  • 知覚の現象学 改装版

    M.メルロ=ポンティ 著 / 中島盛夫 訳

    現象学入門

    本書の序文は「現象学とは何か」についてもっとも明確に書かれた文章にかもしれません。
    また空間や時間、心身論の分析を通して現象学の手法が自然に学べるようになってます。
    訳も明解ですし現象学入門におすすめです。(2023/08/08)

  • アメリカ型キリスト教の社会的起源

    H.リチャード・ニーバー著 柴田史子訳

    アメリカの分裂

    キリスト教に限らず時代を経るに従い分裂していきます。とくに経済、地域、国籍、人種とアメリカには分裂を誘発する要素が多々あります。
    ラインホルドの実弟リチャードはそういった要素を丹念に分析し、いかにアメリカの教派が誕生したのか描いていきます。そして統一の道も。
    本作の原著は1929年ですが、現代はそれ以上に分裂が進んでいるといえるかもしれません。アメリカの未来を予想する上でリチャードの分析は不滅です。(2023/07/24)

  • 般若経(ちくま学芸文庫 ヒ-13-1)

    平井俊榮 訳注

    智慧の完成

    「般若」とは「智慧」を表わします。ここでいう「智慧」は雑学や情報ではなく人間としてより良く生きる方法です。
    収録されているのは『般若心経』『金剛般若経』そして『大品般若経』の一部です。サンスクリット語の原典からの現代語訳も刊行されていますが、日本・中国と1000年以上漢訳で受容されてきました。もっぱら漢訳での研究なされ伝搬してきたことを考えると我々の遺伝子に刻まれているといっても過言ではないでしょう。
    何度となく読み返していますが、その度に新しい発見があります。とくに現在は情報化社会で多くの不確かな情報が飛び交っています。不確かな情報の中でより良く生きるために必要な情報を得るために、いま一度般若経を学び直す時なのかもしれません。(2023/07/23)

  • 神を観ることについて 他二篇(岩波文庫 青823-1)

    クザーヌス 著 / 八巻和彦 訳

    神の眼差し

    クザーヌスは『学識ある無知』の中で神がいかに人間の認識を超えているかを描きました。では我々はいかに神を認識するのか。
    それは我々が神を観ることで神もまた我々を観るのです。また神の眼差しは神の愛であります。クザーヌスの思考は多くの逆説を描いていますが、不思議と納得できます。
    彼の思考はどこまでもキリスト教的ではありますが、晩年にはイスラム教との融和を目指したように、超キリスト教的といっても過言ではないでしょうか。
    グローバル化やITの発展によって世界には多くの軋轢が生まれています。しかしクザーヌスを通し融和の道が模索できるのではないかと考えます。(2023/07/23)

  • 学識ある無知について

    ニコラウス・クザーヌス 著 / 山田桂三 訳

    神を語ること

    肯定形(~である)で神を語ることには限度があります。なぜなら神が人間の認識を超越し矛盾すらも内包しているからです。
    クザーヌスは数学の極限を駆使し神の超越性を示します。
    彼の思考は直感に反しています。しかし二重否定が肯定を表わすように神の愛を見せてくれます。
    彼の仕事の多くは歴史の表に表われることはありませんが、コペルニクスやケプラー、パスカル、ヤスパースそして日本の西田幾多郎と影響を与えてきました。
    本書は彼の代表作であり、クザーヌスの思考を学ぶ上で相応しい一冊です。(2023/07/23)

  • イエス伝 マルコ伝による

    矢内原忠雄

    イエスとともに

    本書は4つの福音書とくにマルコ伝を中心にイエスの伝道を追体験できるようになっています。
    著者は無教会主義者でありますが、その筆は実証的で他の福音書も参照しつつ、イエスの伝道、奇跡の意義など他宗派・他教徒に限らず理解しやすくなっています。
    キリスト教を学ぶ上で第一は聖書でありますが、補足として十分な内容になっています。自分の立場(信仰)を再確認する意味でおすすめです。(2023/07/08)

  • キリスト教入門

    矢内原忠雄

    キリスト教“信仰”入門

    「とりえあずキリスト教の教義や歴史を知りたい」という方にはおすすめしません。
    この本はキリスト教への信仰入門書です。信仰とくに無教会主義への理解が深まります。
    キリスト教への入信を考えている方あるいはキリスト教信仰を通して自身の信仰(宗教・宗派)を再確認したい方におすすめです。(2023/07/08)

  • 形而上学

    アリストテレス(著)、岩崎勉(訳)

    西洋哲学の礎

    万学の祖アリストテレスの主著は何といっても『形而上学』でありましょう。彼は自らの哲学のスタート(第一の学)を本作と定めました。
    さて現在遺っている『形而上学』はおそらくノートやメモの類いで、同じような話題がくり返されていたり構成も行きつ戻りつ安定しません。しかしその分、彼の思考を十二分に反映しているといえるでしょう。
    岩崎訳は解説の小山氏が「簡潔正確」と評するように雑駁な部分がかなり整理されており読みやすい翻訳になっています。言葉遣いが古い、そもそも絶版で手に入りづらいことを除けばファーストチョイスに上げてもいいかもしれません。
    アリストテレスが生きたのはおよそ2400年前ですが、現在でもハイデッガーの『存在と時間』など西洋哲学に影響を与えています。西洋思想に関心のある方は一度手に取って下さい。(2023/07/06)

  • 神学大全 I

    トマス・アクィナス 著 / 山田晶 訳

    西洋哲学の源泉

    編集の山田氏の恩師・山内得立氏はトマスを「澄みわたった湖」と評価したそうです。
    トマスといえば悪しきスコラ学の大成者という印象がありましたが(かつて筆者もそうでした)、『神学大全』のギリシャ哲学やキリスト教神学が流れ込み洗練されています。たとえば近代哲学の立役者デカルトはスコラ学者を批判していますが、同時にかなりの思想・方法論を輸入しています。少しでも西洋哲学をかじった方は種本が見つかるかと思います。
    さて本書に収録されていますが、第1部の神学・形而上学の一部です。しかしそこには精髄が凝縮されており、訳文や注釈を読むことでほぼトマスの形而上学・存在論はほぼ理解できます。
    第2部の徳論についても岩波文庫に順次収録される予定ですので、合わせて読むことをおすすめします。(2023/06/29)

  • 大乗仏典 1 般若部経典 金剛般若経・善勇猛般若経

    長尾雅人 戸崎宏正 訳

    般若経の入口と出口

    どちらも般若経の後期に成立したされます。
    『金剛般若経』はその中でも初期に成立し、「空」と言葉を使わず空観を説いており禅宗で重用されています。
    いっぽうの『善勇猛般若経』は後期の後期に成立しました。
    どちらも多くの逆説が説かれており、私たちの固定観念を揺さぶります。これらは混乱を呼ぶのではなく絶対的な自由(涅槃)の探求です。
    成立順から考えてもそれぞれ般若経の入口・出口と呼んで過言ではないでしょう。涅槃への旅程に幸あらんことを。(2023/06/26)

  • 原典完訳 アヴェスタ ゾロアスター教の聖典

    野田恵剛 訳

    優れた訳業

    ある宗教を理解する上で、何よりもその経典を読み込むことが肝要と考えます。
    とくにゾロアスター教の『アヴェスタ』はヒンドゥー教、仏教(とくに密教)、キリスト教やグノーシス主義など多大な影響を与えた経典であり、興味をお持ちの方は多いと思います。
    これまでの邦訳が抄訳や重訳であったことを考えると本書の刊行は大旱の雲霓です。
    そして何よりも気になるのは翻訳の出来でしょう。日本語として自然で美しい訳になっており、教理をだけでなく詩文としても楽しめます。(2023/06/08)

  • バウッダ[佛教]

    中村元 三枝充悳

    原始仏教、部派仏教そして大乗仏教

    仏教(佛教)とは何か?広義には「ブッダ(覚った人)の教え」、狭義には「シャカ族のブッダであるゴータマ(釈尊)の教え」になります。
    本書は狭義の仏教(原始仏教)が上座部と大衆部に分裂(部派仏教)し狭義と広義の仏教が混ざり合った大乗仏教に至った流れを示しています。
    とくにゴータマ・ブッダの直接の教えが説かれているとされる「阿含経典」の説明、阿含経典を重視しつつも「大乗非仏論」をはじめとする大乗仏教否定or偏重に陥らず「仏教」を総体的・中立に理解する姿勢に敬意を覚えます。
    仏教を学ぶ上で阿含経など経典を実践することが第一ですが、仏教の理念・実践が学べる一冊です。(2023/06/04)

  • フィレンツェ史 上

    ニッコロ・マキァヴェッリ 著 / 米山喜晟 在里寛司 訳

    血塗られた都市

    華やかなイメージとは裏腹に有史よりフィレンツェは貴族と市民、党派同士と血生臭いが繰り広げられて来ました。
    マキアヴェリがこういった母国の混乱を眺める中で『君主論』や『ディスコルシ』で強力なリーダーを描き待望したのも当然でしょう。2作の最良の副読本といっても過言ではありません。
    また著者の意図に反するかもしれませんが、マキアヴェリによる筆はフィレンツェの闘争を鮮やかに描き読み物としても読者を引きつけます。解説によれば『君主論』と同様に『フィレンツェ史』も重版を重ねたそうで、それだけ読者に評価されたといえます。
    最後に本作はちくま学芸文庫版の他に岩波文庫版が存在します。眺めた程度ですが、読みやすさという意味では原典にない改行を行ったちくま版が有利だと思います。ぜひマキアヴェリの美筆をご堪能ください。(2023/04/06)

  • ディスコルシ 「ローマ史」論

    ニッコロ・マキァヴェッリ 著 / 永井三明 訳

    共和国論

    『ディスコルシ(覚え書き)』はこれ以外にも「ローマ史論」「リウィウス論」「政略論」など様々なタイトルで呼ばれます。あえて新しいタイトルを付けるなら「共和国論」となるでしょう。
    さて本作はリウィウスの『ローマ史』を下に国家とくに共和国制について述べた作品です。内容は国家の成り立ち、繁栄の方法、統治や軍事など多岐に渡ります。
    『君主論』と同時期に書き上げられ、古来より執筆の前後や内容の対称性が議論されてきました。本作も『君主論』同様、理想論でもどうしようもない政治力学(パワー・ポリティクス)を明らかにした作品といえるでしょう。
    『君主論』と合わせて読むことでマキアヴェリの思想の奥深さを堪能できます。(2023/04/02)

  • リップマン 公共哲学

    ウォルター・リップマン 著 / 小林正弥 訳

    民主主義再生へ

    リップマンは処女作『世論』から一貫して民主主義再生を模索してきました。『公共哲学』はその円熟を示しています。
    さて民主主義は多くの問題を抱えています。民衆は容易にステレオタイプ(レッテル)に支配されます。一人一人に高い知見を求めるのは難しいし、コミュニティ(集団)の意思統一は困難です。問題が発生してからコミュニティに周知され政府が対策を取るまで早くとも数ヶ月の時間がかかる。そもそも事の真偽や正不正を多数決で決めることに無理はないか。
    彼は多くの問題をあぶり出した上で「公共哲学」という解決策を提示します。それはプラトンをはじめ多くの西洋思想を包括した営みです。
    皮肉にも2022年ロシアのウクライナ侵攻で「民主主義は無秩序な暴力に無力である」というリップマンの分析の正しさが証明されました。我々は公共哲学とともにポピュリズムと向き合う時期に来ています。(2023/03/18)

  • 理性と実存 五つの講義 <リベルタス学術叢書 12>

    カール・ヤスパース 著 / 越部良一 訳

    真実と現実

    西洋哲学は理性を通して真実を探求してきたといっても過言ではないでしょう。それによって多くの思想や科学が発展してきました。
    しかしそのために現実を生きる我々の存在(実存)は無視されてきた。キルケゴールとニーチェは「実存」に着目し自らの哲学を構築しました。
    そしてヤスパースは理性と実存の止揚を目指しました。

    さて本作は前期の『哲学』と後期の『真理について』の中間にある作品です。抱越者、哲学的論理学、哲学的信仰など術語も登場します。
    ヤスパース哲学の魅力は理性と実存の調和にありますが、本作でスタンスが定まったといえるでしょう。
    先行して刊行された『哲学入門』・『実存哲学』とともにご堪能ください。(2023/03/13)

  • スタディーズ 唯識

    高崎直道

    唯識中級者向け

    本書は世親の『中辺分別論』(中公文庫『世親論集』に収録)を下に唯識論を説明していきます。
    対象としてはまったくの初学者というよりは中級者向けだと考えます。
    文献などの紹介も充実していますし、唯識理論の解説も確かです。より唯識の理解を深めたいという方にお勧めです。(2023/02/15)

  • 清沢満之入門 絶対他力とは何か

    清沢満之 暁烏敏

    他力即自力 自力即他力

    清沢氏は「自分は息子としても夫としても親としても不適であった」と述懐します。
    また多くの不幸を経験し捨て鉢なってもおかしくないですが、自らの思索を深めていきます。それが「絶対他力」の境地であり「すべては阿弥陀様にお縋りしかない」ということです。そしてその境地に達すると他力と自力はイコールとなります。
    私は自力(聖道門)の宗派に属しておりますが、大いに学ぶ所がありました。合掌。(2023/02/15)

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