大絶画さんのページ
レビュー
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柴山全慶 無門関講話
光を求めて
柴山師は禅的体験をしばしば「深い絶望を超えるような体験」とおっしゃっています。またいたずらに公案を思弁的・倫理的に解釈することを戒めています。
本書はもともとアメリカの知識層に向けた提唱が元になっています。たとえば一見すると罵倒としか思えない無門師の先師への賞賛であり、禅の初心者が躓くであろう部分を補足していますが、決して回答が示されていません。それは読者が全存在を傾けて導き出すものでありましょう。
『無門関』の解説書はいくつかあります。自分の師や宗派に合せて選ぶのがベストとは思いますが、そういった縁のない方は本書を手にするのがいいでしょう。どうか一筋の光が得られんことを。(2025/08/27) -
慈雲尊者提唱『金剛経』の真髄 『金剛般若経講解』を読む
密禅一如
一部の宗派を除き仏教では「戒(律)・定(禅)・慧」の三学兼修が求められます。真言宗で重用される『菩提心論』でも「三昧地(禅定)に達することで即身成仏(生身のまま覚りを得る)できる」と説かれ、尊者自身、道場観(密教の瞑想法)を通し自らの過ちに気付かれました。禅への関心は深く禅宗との交流もありました。
尊者が禅宗で重用される『金剛経』の講義を行ったのも当然でしょう。一段一段、仏典のみならず儒教や神道の経典を駆使して読み解いておられます。一見すると密教と無関係とも思われますが「すべての文字の中に仏教の教え(大日如来の声)が宿っている」という空海様の教えを思わせます。
密教と禅宗の融和が本作に示されているように思います。(2025/08/24) -
喜ばしき知恵(河出文庫 ニ1-1)
ニーチェ入門に
何からニーチェに入るかは人それぞれですが、後期ニーチェ思想は始まりであり主著『ツァラトゥストラ』とも関連が深い『喜ばしき知恵』が一番かもしれません。
内容も(回復期だったせいか)伸び伸びとしておりアフォリズム(断章)ですのでどこから読んでもいい。125番の「神の死」がそれ以外のアフォリズムも面白う。
さて本作はちくま学芸文庫・信太訳『悦ばしき知識』や講談社学術文庫・森訳『愉しい学問』などがありますが、河出文庫・村井訳は訳注がほとんどなく本文を読むだけで内容がこなれておりお勧めです。(2025/08/04) -
マヌ法典 ヒンドゥー教世界の原型
ヒンドゥー教世界へ
中公文庫で『マヌ法典』の翻訳を担当した著者による解説書です。
現在でもインドの8割はヒンドゥー教徒が占めており、3000年以上インドの生活規範を支配してきた『マヌ法典』(をはじめとしたダルマ法典)の理解なくしてインドの理解はできません。
さて本書では歴史的背景や法典の内容を通してヒンドゥー教世界の理解を促していきます。現在でも30以上の言語、1000以上の方言があるとされるインドが一つの国としてまとまっているのも『マヌ法典』をはじめとした規範があったからでしょう。もちろん現在も根深く残るカースト制度など負の影響もありますが、逆説的にITの発展につながりました(下位のカーストが法典にない仕事に集中したため)。
2023年インドの人口は14億人以上、中国を超え世界一になりました。今後、世界はインドの市場を狙うことは間違いありません。しかしカーストの問題そしてパキスタン(イスラム教圏)との対立と問題はあります。インドに対しどのようなスタンスを取るにせよ、背後のヒンドゥー教世界を理解する必要があります。本書はその助けとなるでしょう。(2025/06/22) -
般若心経の新世界 インド仏教実践論の基調
観想のプロセス
『般若心経』は何を説いたお経か?著者は「観想(瞑想)のプロセス(階梯)を明らかにしている」と説きます。
一見すると既存の仏典を否定しているかのように見える経文も、サンスクリット語のテキストを読む込むことで、それまでの仏陀の教えを肯定している。それはすべての仏教を包括する教えといっても過言ではないでしょう。さらにおよそ1400年前に空海が『般若心経秘鍵』が同じ結論に達していたのも驚くべきことです。
さて大きな書店に行けば棚の1・2列、般若心経関連の著作が占拠していることも珍しくありません。自分のレベルや宗派に合せて選ぶのが一番とは思いますが、サンスクリット語テキストから理解したという方は本書がベストだと思います。(2025/06/22)
復刊リクエスト投票
パワーシフト 21世紀へと変容する知識と富と暴力
【著者】A・トフラー 著 徳山二郎 訳
The・禅シリーズ
【著者】原田雪渓
著作がほとんど絶版になっているようなので復刊を望みます。(2025/08/11)
禅の正門
【著者】山田耕雲
『提唱禅宗五部録』(こちらもリクエストされています)ともに復刊してほしいです。(2025/08/11)
提唱禅宗五部録 上下
【著者】山田耕雲
ぜひ耕雲師の提唱を読みたいです。(2025/08/11)
全訳 アティシャ 菩提道灯論
【著者】望月海慧 訳
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