occam's razorさんの公開ページ 復刊投票コメント一覧 4ページ 公開ページTOPへ 復刊リクエスト投票 カインの市 【著者】ケイト・ウィルヘルム ウィルヘルムの長編はどれもいいので復活させたい。小説作りのうまさに加えて、そこに持ち込もうとしているものが、普通だと単なる骨組みになるけれど、彼女の場合、生きた人間になる。その「生きた人間」を実感するには往々にして読みの深さが要求されますが、そこがウィルヘルムの醍醐味でしょう。作家の志が高いというか、作品の要求する「読みの深さ」が思った以上に深いというか…。(2003/08/07) 対談集: 発想の周辺 【著者】安部公房 安部公房の対談集(エッセイを含むゴタマゼ本もありますが)は、過去に本書や『都市への回路』、『死に急ぐ鯨たち』、中公文庫で出ていたドナルド・キーン氏とのものなどを読んでいるのですが、最近久しぶりにそれらを引っぱり出してきて再読したところ、その明晰さ、独自ぶり、アイディアの相変わらずの新しさなどにあらためて感心してしまいました。本書は昭和40年代を中心に、様々な文芸誌・新聞に掲載された対談を集めたものだけに、もしかすると版権の関係で復刊困難かもしれませんが、これらの著名な対談相手を見ると惜しい。安部公房の小説・戯曲に接するきっかけとして、彼の対談は格好の入口になります。才能ある不特定多数のひとが簡単に手に取れる状況が必要なのです。その影響は計り知れないと思います。(2003/08/06) ボロゴーヴはミムジィ 【著者】ヘンリー・カットナー カットナーの作風を知るには格好の作品集でしょう。収録作の多くはハードSFの牙城ともいうべき雑誌に発表されましたが、意外に“軽い”作品ばかりです。わたしにはSFとファンタジーの境界線上のように思えます。アメリカでの高評価にも拘らず、日本でさほどの評価を得られなかったのは、どうやらSFらしさが希薄なせいではないかと。その意味でもう少し広い読者層に読んでもらう必要があるかも知れません。新井苑子さんのオシャレなカバー画がよく似合う短編集でした。単行本としてカットナー名義になっていますが、収録作の半分ぐらいがルイス・パジェット名義(奥さんのC・L・ムーアとの共作)です。(2003/08/05) 世界文学全集27 【著者】ハムスン 実はこの本、持っています。 副題は“北歐三人集”―。 昭和3年の発行です。 当然、旧字・旧カナですし、訳文も古めかしい。翻訳自体も恐らく ドイツ語あたりからの重訳である可能性が高いと思います。 従って、このままの形での復刊というのはあり得ないでしょう。 (個人的にはこの古い訳文の味わいが堪らなくて偏愛しています。 井伏鱒二や川端康成に見るような昔の微妙な日本語がいい) ただ、復刊の価値があると思うのは作品選択の立派さです。20世紀 前半における北欧新ロマン主義の一端がよく窺えるので、是非改訳 の上、出して頂きたいです。収録作品を掲げましょう。 ● K・ハムスン(ノルウェー) 『飢え』(宮原晃一郎訳) ● B・ビョルンソン( 同 ) 『アルネ』(生田春月訳、以下同) 『シンネエヴェ・ソルバッケン』(『日向丘の少女』) 『手套』―三幕劇― ● S・ラゲルレーフ(スウェーデン) 『地主の家の物語』 『沼の家の娘』(2003/08/04) 物質的恍惚 【著者】ル・クレジオ 最近のル・クレジオもいいのですが、初期のほうが好きです。『調書』『大洪水』『愛する大地』『悪魔祓い』などなど。ただ、古書で探すと高くて高くて…。この『物質的恍惚』も一度は目を通しておきたいとかねがね思っているのですが、そういうわけで手にしていません。後記: さほど悪くない値段で古本を落手。一読、やはり読んで良かったです。詩でもあり哲学でもあり、最も純粋にル・クレジオを感じ取れる気がしました。これが巷間に出回っていないというのは残念だし、わたしも綺麗な状態のものをもう1冊もっていてもいいなと思う。(2003/08/03) フェルディドゥルケ 【著者】ゴンブローヴィッチ 『バカカイ』でこの人の不思議な感性に興味を持った人は少なからずいるはずです。代表作の本書を復刊するまたとない機会だと思います。(2003/08/01) 時間と空間のかなた 【著者】A・E・ヴァン・ヴォークト 『時間と空間のかなた』と『終点:大宇宙!』という2冊の短編集はいちばん油の乗りきっていた時期(1940年代)の作品を精選したもので、SF史上まれに見る質の高さを誇っています。これを見ると、昔のヴォークトが如何に冴えていたかがよく解ります。わたしはいつもこの2冊をセットで考えています。最初向こうで別々に出た事情で2冊になっていますが、本来1冊で出るべき内容です。沼沢洽治氏の訳文は文体がかなり古くはなっていますが、かなり味のある名文家なのでいまでも全く気になりません。追記: 先頃、本書の原書を手に入れましたが('50年代に出た Avon 版)、そちらには訳書にない作品が2つ、処女作の 「 野獣の地下牢 」 と未訳の “ Heir Unapparent ” が収録されていました。(2003/08/01) 終点:大宇宙! 【著者】A・E・ヴァン・ヴォークト 悪魔と魂の取引をするつもりは毛頭ありませんが、魂と引き換えに3つの願いを叶えてやる云々…ならぬ、100冊のSFを絶版にするのと引き換えに3冊のSFを復刊させてやると言われたら…。私の場合、この『終点:大宇宙』と『時間と空間のかなた』を挙げることは間違いないでしょう。(もう1冊は何にしよう? 非Aの世界かな?)いや、この本はもう、何回読んだか覚えていません。そういう本は出版社にとってありがたくないのでしょう。もし今後完全にリスト落ちさせるつもりであるなら問題ですが、復刊の希望が高まれば、東京創元社さんは定期的に重版してくれることと思います。そうならないよう投票します。(2003/08/01) ロボット貯金箱 【著者】風見潤&安田均・編 コバルトのSFシリーズの中でもこれは買いませんでした。というか、見たこともなかったです。カットナーの表題作は“ Robots have no tails ”(1942年作)ですね。たいていのSF史年表に載っていますね。古本屋に転がっていればそちらで買ってしまうでしょうが、復刊されればこちらで買います。(2003/08/01) 杜松の時 【著者】ケイト・ウィルヘルム ウィルヘルムは全部復活させたいものですね。その価値はある作家ですからね。(2003/07/26) クルーイストン実験 【著者】ケイト・ウィルヘルム ウィルヘルムの邦訳書の中でいちばん好きな作品です。“一見”普通小説ですが、結構はSFです。Pa因子という(苦痛を軽減する)新薬の開発の物語と、科学者の倫理を扱う面と、“女性論”の展開がからまって大きく膨らむ物語です。話の進行にともなって頭をもたげて来る“不可知な状況”、いわば“謎”ですが、それが科学というものの不可知さも十分暗示しており、高いレベルで「S(サイエンス)F(フィクション)」になっていたと思います。そして主人公アンの“多義的”で“謎”の行動から、本当にPa因子は効いているのか、夫婦間の葛藤が原因なのか…等々、意味を探り出し大きな物語の帰納的再構成をしながら読むという、なかなか出来ない読書体験をさせてもらえます。「傑作」の安売りが多い昨今ですけど、これは本当の「お買い得」。復刊して、みなさんに深く深く読んで欲しい一冊です。(2003/07/26) 334 【著者】トマス・M・ディッシュ もろ1970年代っぽい作品でしたね。かなり昔に読んでそれきりなので詳しい内容は忘れてしまいましたが、シルヴァーバーグの『内側の世界』とともにある種の“ひと塊まり”な時代的印象が残っています。コルターサルの『石蹴り遊び』に似た構成を取っているので全部解ろうとすると大変でしょうが、それぞれのシーン自体は強烈で面白いと思いましたね。そんなに読みづらい翻訳でもなかった記憶はあります。ディッシュみたいな作家、とりわけディッシュらしい『334』みたいな作品は、いまでも行けてると思います。(2003/07/26) 十億年の宴―SF・その起源と歴史― 【著者】ブライアン・W・オールディス うーむ、それはマズイ。絶版とは!多少クセのある論旨といっぷう変わった作品選択で語られたSF史ですが、これほど多くの優れたSF(と境界作品)を教えてくれるものが今ないというのは憂うべき状況です。ネット社会になって以来のリファレンス類の充実は驚嘆に値しますが、「史観」を明確にしたまとまった書物を目にする機会が、昨今ますます減って来ている気がします。邦訳された中でその筆頭格と見られていた本書が落ちてしまったとあっては見過ごすわけにはいかない!…と熱くなってしまうのも、本書に対する愛着ゆえか。最初のうち、SF「論」として読んでいたものが、長年繰り返し読むうちにほとんどオールディスに同化してしまい、自分のなかでひとつのスタンダードになっていますので、これが消えて行くのはアイデンティティの喪失にも等しい。(2003/07/21) 去りにし日々、今ひとたびの幻 【著者】ボブ・ショウ 原型短編「去りにし日々の光」の出来に遠く及ばないと言う人もいますが、“スローガラス”というアイディアを核に、メのいっぱい詰まった大小さまざまなアイディアが加わり、社会が変貌していくまでのその“展開力”にわたしは脱帽しました。たしかに女性の描き方など、弱いかなあという面も、あるにはあるのですが…。それにしても、薄い一冊でこれだけの濃い内容ですから。ボブ・ショウは未訳の “Orbitsville” や “A Wreath of Stars” も出して欲しいところですが、その前にまず既訳分の復活でしょうか。因みに、本書の訳者「蒼馬一彰」は酒井昭伸さんですね。氏の訳書第一号でした。(2003/07/16) ザ・ベスト・フロム・オービット 【著者】デーモン・ナイト編 つい最近手に入れて読みましたが、珠玉のアンソロジーです。復刊の価値ありです!R・ウィルスンの「世界の母」は、この種のものとしては最も美しく神々しい作品ではないでしょうか? ラスの「<黒髭>の女」は、描写に詩的な教養が光るフェミニズム・ヒロイ(ニ?)ックファンタジーで、全訳が待たれる“アリックス・シリーズ”の一篇です。「計画する人」はそれほどでもなかったですが、長編 『 クルーイストン実験 』 の下敷きになった短編なので、それなりに興味深くは読みましたが…。ウルフの「取り替え子」は普通小説としてもホラーとしてもすごくいいですね。編者デーモン・ナイトの素晴らしさも強調しておきたいところです。彼が書き直しを迫らなければ「憑きもの」や「ドクター」があんなに印象深い傑作になっていたかどうか。今手に入る作品や個人短編集に収録されたものなども若干あるとはいうものの、ここでしか読めないネビュラ賞受賞作が4編も入っているなど(「秘密の遊び場」、「世界の母」、「計画する人」、「憑きもの」)、復刊を待つ人も多いことと思われますので、一票を投じます。(2003/07/05) 年刊SF傑作選(全7巻) 【著者】ジュディス・メリル編 そういえばこれ、誰もリクエストしていなかったんですね。絶版SFアンソロジーは数あれど、これくらい復刊が切望されている書名が挙がっていなかったのも、不思議と言えば不思議。「これがはたしてSF?」というような作品が多く、最初はマゴついた記憶があります。でも振り返ると、“気に入ったもの” や “気になったもの” が多いのです。 ―結局は何度も読み返すことになり、「これがSFだ」(少なくともSFの全く違う側面だ)と納得するに至りました。「繰り返し読まれた本は豊かになります」とボルヘスもあるインタビューのなかで言っています。これはそういう本でしたし、1960年代の精神風景というものもわたしはこの7冊(特に後半の巻)で知ったような気がします。サンリオ文庫以前では、これが唯一のものだったのではないでしょうか。(2003/07/02) 詩学入門 【著者】エズラ・パウンド 本当に影響を受けました。古い英語の知識に欠けるため十全に理解したとはとても言えないのですが、実例として挙げられている古い詩のいくつか(ランドーの「旧詩体」など)からはパウンドのいう視覚的(ファノポエイア)音楽的(メロポエイア)意味的(ロゴポエイア)の全要素が一体となった“オブジェ”が眼前に現れる経験を味わったものです。T・S・エリオット『荒地』の草稿の「無駄な部分」をバッサバッサと切り捨てて不朽の名作に仕立て上げてしまったパウンドの“眼”や“耳”や“記憶”の良さが故なきものではなかったということが、本書からはよく解るのです。「冨山房(ふざんぼう)百科文庫」という新書版サイズの地味なスタイルで刊行され、いまでは古本屋でもあまり見かけません。確かにパウンドの散文は一見とりとめもなく読みにくいかも知れませんが、これは埋もれて欲しくない一冊です。ひっそりとでもいいですから本屋の片隅に並んでいて欲しい。(2003/06/15) 星々の轟き 【著者】エドモンド・ハミルトン著・安田均編 「進化した男」など、SF史上重要な短編も含まれていて、埋もれさせてしまうにはあまりにも惜しい。『フェッセンデン』収録作と同じように1930年代の作品が多く含まれていますが、ハミルトンの場合、通常その年代の作品にありがちな無味乾燥さから免れているケースが多いですからね。青心社のSFは本書と『ディオ』(デーモン・ナイト)、『子供たちの午後』(R・A・ラファティ)をリクエストしましたが、心憎いシリーズです。(2003/06/11) 沈黙の声 【著者】トム・リーミイ サンリオ文庫版もちくま文庫版も買いませんでした。著者の短編集のほうは読んで気に入っていたのですがね。おそらく、イメージ的に「サーカス物」「カーニバル物」があまりにも定番的すぎるからでしょう。でも『何かが道をやってくる』より出来がいいということであれば話は別。読んでみたくなりました。復刊希望!(2003/05/21) キンドレッド -きずなの招喚- 【著者】オクテイヴィア・バトラー ふだん本など読まない人にこの本を貸したときの反応を見ると、反応の良さでは『アルジャーノンに花束を』と双璧です。あまり知られていない傑作だと思います。バトラーは比較的激しいフェミニストだと聞いています。そしておそらくマイノリティー差別も激しく糾弾するでしょう。しかしこの小説では不思議と静かな時間が流れ、熟成するような熱い愛情が濁流のように流れているのです。基本のところでは物語性を重視した作品作りですので、エンターテインメント的と見られかねない面もあるのですが、人種的・社会的な主従関係だけでなく男女の主従関係(こんにちまでにも痕跡を残す)の出来ていくさまは圧巻です。当時の南部の白人男性の気まぐれぶりや底知れぬ意地悪さ…それと裏腹の「愛情」―まるで愛の内容を履き違えたかのような不可解な愛。感情の配合は違うがその大きさにおいて現代とまったく変わらない愛。これがバトラーの筆致のなかでは理解可能なのです…こうした力量は多くの人に味わって頂きたいと思い、リクエストしました。(2003/05/07) 前へ 1 2 3 4 5 6 次へ
復刊リクエスト投票
カインの市
【著者】ケイト・ウィルヘルム
小説作りのうまさに加えて、そこに持ち込もうとしているものが、
普通だと単なる骨組みになるけれど、彼女の場合、生きた人間になる。
その「生きた人間」を実感するには往々にして読みの深さが要求され
ますが、そこがウィルヘルムの醍醐味でしょう。
作家の志が高いというか、作品の要求する「読みの深さ」が思った
以上に深いというか…。(2003/08/07)
対談集: 発想の周辺
【著者】安部公房
過去に本書や『都市への回路』、『死に急ぐ鯨たち』、中公文庫
で出ていたドナルド・キーン氏とのものなどを読んでいるのです
が、最近久しぶりにそれらを引っぱり出してきて再読したところ、
その明晰さ、独自ぶり、アイディアの相変わらずの新しさなどに
あらためて感心してしまいました。
本書は昭和40年代を中心に、様々な文芸誌・新聞に掲載された
対談を集めたものだけに、もしかすると版権の関係で復刊困難
かもしれませんが、これらの著名な対談相手を見ると惜しい。
安部公房の小説・戯曲に接するきっかけとして、彼の対談は格
好の入口になります。
才能ある不特定多数のひとが簡単に手に取れる状況が必要な
のです。その影響は計り知れないと思います。(2003/08/06)
ボロゴーヴはミムジィ
【著者】ヘンリー・カットナー
収録作の多くはハードSFの牙城ともいうべき雑誌に発表されましたが、
意外に“軽い”作品ばかりです。わたしにはSFとファンタジーの境界線上
のように思えます。アメリカでの高評価にも拘らず、日本でさほどの評価
を得られなかったのは、どうやらSFらしさが希薄なせいではないかと。
その意味でもう少し広い読者層に読んでもらう必要があるかも知れません。
新井苑子さんのオシャレなカバー画がよく似合う短編集でした。
単行本としてカットナー名義になっていますが、収録作の半分ぐらいが
ルイス・パジェット名義(奥さんのC・L・ムーアとの共作)です。(2003/08/05)
世界文学全集27
【著者】ハムスン
副題は“北歐三人集”―。 昭和3年の発行です。
当然、旧字・旧カナですし、訳文も古めかしい。翻訳自体も恐らく
ドイツ語あたりからの重訳である可能性が高いと思います。
従って、このままの形での復刊というのはあり得ないでしょう。
(個人的にはこの古い訳文の味わいが堪らなくて偏愛しています。
井伏鱒二や川端康成に見るような昔の微妙な日本語がいい)
ただ、復刊の価値があると思うのは作品選択の立派さです。20世紀
前半における北欧新ロマン主義の一端がよく窺えるので、是非改訳
の上、出して頂きたいです。収録作品を掲げましょう。
● K・ハムスン(ノルウェー) 『飢え』(宮原晃一郎訳)
● B・ビョルンソン( 同 ) 『アルネ』(生田春月訳、以下同)
『シンネエヴェ・ソルバッケン』(『日向丘の少女』)
『手套』―三幕劇―
● S・ラゲルレーフ(スウェーデン)
『地主の家の物語』
『沼の家の娘』(2003/08/04)
物質的恍惚
【著者】ル・クレジオ
『調書』『大洪水』『愛する大地』『悪魔祓い』などなど。
ただ、古書で探すと高くて高くて…。
この『物質的恍惚』も一度は目を通しておきたいとかねがね
思っているのですが、そういうわけで手にしていません。
後記: さほど悪くない値段で古本を落手。一読、やはり読んで良かったです。詩でもあり哲学でもあり、最も純粋にル・クレジオを感じ取れる気がしました。これが巷間に出回っていないというのは残念だし、わたしも綺麗な状態のものをもう1冊もっていてもいいなと思う。(2003/08/03)
フェルディドゥルケ
【著者】ゴンブローヴィッチ
時間と空間のかなた
【著者】A・E・ヴァン・ヴォークト
沼沢洽治氏の訳文は文体がかなり古くはなっていますが、かなり味のある名文家なのでいまでも全く気になりません。
追記: 先頃、本書の原書を手に入れましたが('50年代に出た Avon 版)、そちらには訳書にない作品が2つ、処女作の 「 野獣の地下牢 」 と未訳の “ Heir Unapparent ” が収録されていました。(2003/08/01)
終点:大宇宙!
【著者】A・E・ヴァン・ヴォークト
私の場合、この『終点:大宇宙』と『時間と空間のかなた』を挙げることは間違いないでしょう。(もう1冊は何にしよう? 非Aの世界かな?)
いや、この本はもう、何回読んだか覚えていません。そういう本は出版社にとってありがたくないのでしょう。もし今後完全にリスト落ちさせるつもりであるなら問題ですが、復刊の希望が高まれば、東京創元社さんは定期的に重版してくれることと思います。そうならないよう投票します。(2003/08/01)
ロボット貯金箱
【著者】風見潤&安田均・編
というか、見たこともなかったです。
カットナーの表題作は“ Robots have no tails ”(1942年作)ですね。
たいていのSF史年表に載っていますね。古本屋に転がっていれば
そちらで買ってしまうでしょうが、復刊されればこちらで買います。(2003/08/01)
杜松の時
【著者】ケイト・ウィルヘルム
その価値はある作家ですからね。(2003/07/26)
クルーイストン実験
【著者】ケイト・ウィルヘルム
“一見”普通小説ですが、結構はSFです。
Pa因子という(苦痛を軽減する)新薬の開発の物語と、科学者の倫理
を扱う面と、“女性論”の展開がからまって大きく膨らむ物語です。
話の進行にともなって頭をもたげて来る“不可知な状況”、いわば
“謎”ですが、それが科学というものの不可知さも十分暗示しており、
高いレベルで「S(サイエンス)F(フィクション)」になっていたと思います。
そして主人公アンの“多義的”で“謎”の行動から、本当にPa因子は効い
ているのか、夫婦間の葛藤が原因なのか…等々、意味を探り出し大きな
物語の帰納的再構成をしながら読むという、なかなか出来ない読書体験
をさせてもらえます。
「傑作」の安売りが多い昨今ですけど、これは本当の「お買い得」。
復刊して、みなさんに深く深く読んで欲しい一冊です。(2003/07/26)
334
【著者】トマス・M・ディッシュ
詳しい内容は忘れてしまいましたが、シルヴァーバーグの『内側の世
界』とともにある種の“ひと塊まり”な時代的印象が残っています。
コルターサルの『石蹴り遊び』に似た構成を取っているので全部解ろ
うとすると大変でしょうが、それぞれのシーン自体は強烈で面白いと
思いましたね。そんなに読みづらい翻訳でもなかった記憶はあります。
ディッシュみたいな作家、とりわけディッシュらしい『334』みたいな
作品は、いまでも行けてると思います。(2003/07/26)
十億年の宴―SF・その起源と歴史―
【著者】ブライアン・W・オールディス
多少クセのある論旨といっぷう変わった作品選択で語られたSF史ですが、
これほど多くの優れたSF(と境界作品)を教えてくれるものが今ないという
のは憂うべき状況です。ネット社会になって以来のリファレンス類の充実は
驚嘆に値しますが、「史観」を明確にしたまとまった書物を目にする機会が、
昨今ますます減って来ている気がします。
邦訳された中でその筆頭格と見られていた本書が落ちてしまったとあって
は見過ごすわけにはいかない!
…と熱くなってしまうのも、本書に対する愛着ゆえか。
最初のうち、SF「論」として読んでいたものが、長年繰り返し読むうちにほと
んどオールディスに同化してしまい、自分のなかでひとつのスタンダードに
なっていますので、これが消えて行くのはアイデンティティの喪失にも等しい。(2003/07/21)
去りにし日々、今ひとたびの幻
【著者】ボブ・ショウ
それにしても、薄い一冊でこれだけの濃い内容ですから。
ボブ・ショウは未訳の “Orbitsville” や “A Wreath of Stars” も出して欲しいところですが、その前にまず既訳分の復活でしょうか。
因みに、本書の訳者「蒼馬一彰」は酒井昭伸さんですね。氏の訳書第一号でした。(2003/07/16)
ザ・ベスト・フロム・オービット
【著者】デーモン・ナイト編
R・ウィルスンの「世界の母」は、この種のものとしては最も美しく神々しい作品ではないでしょうか? ラスの「<黒髭>の女」は、描写に詩的な教養が光るフェミニズム・ヒロイ(ニ?)ックファンタジーで、全訳が待たれる“アリックス・シリーズ”の一篇です。「計画する人」はそれほどでもなかったですが、長編 『 クルーイストン実験 』 の下敷きになった短編なので、それなりに興味深くは読みましたが…。ウルフの「取り替え子」は普通小説としてもホラーとしてもすごくいいですね。
編者デーモン・ナイトの素晴らしさも強調しておきたいところです。彼が書き直しを迫らなければ「憑きもの」や「ドクター」があんなに印象深い傑作になっていたかどうか。
今手に入る作品や個人短編集に収録されたものなども若干あるとはいうものの、ここでしか読めないネビュラ賞受賞作が4編も入っているなど(「秘密の遊び場」、「世界の母」、「計画する人」、「憑きもの」)、復刊を待つ人も多いことと思われますので、一票を投じます。(2003/07/05)
年刊SF傑作選(全7巻)
【著者】ジュディス・メリル編
絶版SFアンソロジーは数あれど、これくらい復刊が切望されている書名が挙がっていなかったのも、不思議と言えば不思議。
「これがはたしてSF?」というような作品が多く、最初はマゴついた記憶があります。でも振り返ると、“気に入ったもの” や “気になったもの” が多いのです。 ―結局は何度も読み返すことになり、「これがSFだ」(少なくともSFの全く違う側面だ)と納得するに至りました。
「繰り返し読まれた本は豊かになります」とボルヘスもあるインタビューのなかで言っています。これはそういう本でしたし、1960年代の精神風景というものもわたしはこの7冊(特に後半の巻)で知ったような気がします。サンリオ文庫以前では、これが唯一のものだったのではないでしょうか。(2003/07/02)
詩学入門
【著者】エズラ・パウンド
古い英語の知識に欠けるため十全に理解したとはとても言えないのですが、
実例として挙げられている古い詩のいくつか(ランドーの「旧詩体」など)からは
パウンドのいう視覚的(ファノポエイア)音楽的(メロポエイア)意味的(ロゴポエイア)
の全要素が一体となった“オブジェ”が眼前に現れる経験を味わったものです。
T・S・エリオット『荒地』の草稿の「無駄な部分」をバッサバッサと切り捨てて不朽の
名作に仕立て上げてしまったパウンドの“眼”や“耳”や“記憶”の良さが故なき
ものではなかったということが、本書からはよく解るのです。
「冨山房(ふざんぼう)百科文庫」という新書版サイズの地味なスタイルで刊行され、
いまでは古本屋でもあまり見かけません。確かにパウンドの散文は一見とりとめも
なく読みにくいかも知れませんが、これは埋もれて欲しくない一冊です。ひっそりとで
もいいですから本屋の片隅に並んでいて欲しい。(2003/06/15)
星々の轟き
【著者】エドモンド・ハミルトン著・安田均編
させてしまうにはあまりにも惜しい。
『フェッセンデン』収録作と同じように1930年代の作品が多く含まれて
いますが、ハミルトンの場合、通常その年代の作品にありがちな無味
乾燥さから免れているケースが多いですからね。
青心社のSFは本書と『ディオ』(デーモン・ナイト)、『子供たちの午後』
(R・A・ラファティ)をリクエストしましたが、心憎いシリーズです。(2003/06/11)
沈黙の声
【著者】トム・リーミイ
著者の短編集のほうは読んで気に入っていたのですがね。
おそらく、イメージ的に「サーカス物」「カーニバル物」が
あまりにも定番的すぎるからでしょう。
でも『何かが道をやってくる』より出来がいいということであれば
話は別。読んでみたくなりました。
復刊希望!(2003/05/21)
キンドレッド -きずなの招喚-
【著者】オクテイヴィア・バトラー
反応の良さでは『アルジャーノンに花束を』と双璧です。
あまり知られていない傑作だと思います。
バトラーは比較的激しいフェミニストだと聞いています。
そしておそらくマイノリティー差別も激しく糾弾するでしょう。
しかしこの小説では不思議と静かな時間が流れ、熟成するような熱い愛情が
濁流のように流れているのです。
基本のところでは物語性を重視した作品作りですので、エンターテインメント的
と見られかねない面もあるのですが、人種的・社会的な主従関係だけで
なく男女の主従関係(こんにちまでにも痕跡を残す)の出来ていくさまは圧巻です。
当時の南部の白人男性の気まぐれぶりや底知れぬ意地悪さ…それと裏腹の
「愛情」―まるで愛の内容を履き違えたかのような不可解な愛。
感情の配合は違うがその大きさにおいて現代とまったく変わらない愛。
これがバトラーの筆致のなかでは理解可能なのです…こうした力量は
多くの人に味わって頂きたいと思い、リクエストしました。(2003/05/07)