大絶画さんのページ
レビュー
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マヌ法典 ヒンドゥー教世界の原型
ヒンドゥー教世界へ
中公文庫で『マヌ法典』の翻訳を担当した著者による解説書です。
現在でもインドの8割はヒンドゥー教徒が占めており、3000年以上インドの生活規範を支配してきた『マヌ法典』(をはじめとしたダルマ法典)の理解なくしてインドの理解はできません。
さて本書では歴史的背景や法典の内容を通してヒンドゥー教世界の理解を促していきます。現在でも30以上の言語、1000以上の方言があるとされるインドが一つの国としてまとまっているのも『マヌ法典』をはじめとした規範があったからでしょう。もちろん現在も根深く残るカースト制度など負の影響もありますが、逆説的にITの発展につながりました(下位のカーストが法典にない仕事に集中したため)。
2023年インドの人口は14億人以上、中国を超え世界一になりました。今後、世界はインドの市場を狙うことは間違いありません。しかしカーストの問題そしてパキスタン(イスラム教圏)との対立と問題はあります。インドに対しどのようなスタンスを取るにせよ、背後のヒンドゥー教世界を理解する必要があります。本書はその助けとなるでしょう。(2025/06/22) -
般若心経の新世界 インド仏教実践論の基調
観想のプロセス
『般若心経』は何を説いたお経か?著者は「観想(瞑想)のプロセス(階梯)を明らかにしている」と説きます。
一見すると既存の仏典を否定しているかのように見える経文も、サンスクリット語のテキストを読む込むことで、それまでの仏陀の教えを肯定している。それはすべての仏教を包括する教えといっても過言ではないでしょう。さらにおよそ1400年前に空海が『般若心経秘鍵』が同じ結論に達していたのも驚くべきことです。
さて大きな書店に行けば棚の1・2列、般若心経関連の著作が占拠していることも珍しくありません。自分のレベルや宗派に合せて選ぶのが一番とは思いますが、サンスクリット語テキストから理解したという方は本書がベストだと思います。(2025/06/22) -
偶像の黄昏/アンチクリスト
鉄槌はどこに落ちたか
『偶像の黄昏』『アンチクリスト』ともにニーチェ最晩年の作品です。筆が乗っていたのか毒舌タレントの批評を聞いているような気分にすらなります。しかし2年後、ニーチェは狂気の深淵に沈むことになります。
彼はこれらの作品で西洋の価値観とくにキリスト教道徳を否定していますが、むしろニーチェにこそキリスト教道徳が必要だったのかもしれません。彼自身、キリスト教道徳を否定してもキリスト(イエス)そのものは否定していないように思えます。そもそも彼自身、自らが依って立つ価値観を壊して生きられるほどの「超人」ではなかったのです。
皮肉にも西洋的価値観を破壊するために振り下ろされた鉄槌はニーチェ自身を砕くことになりました。本書の読者はくれぐれも注意されますよう。
最後に西尾氏の翻訳に触れます。簡単な注は()で挿入されており、文体もふてぶてしさを感じられ、ある種の心地よさすらあります。ぜひ書店などで読み比べて自分に合ったものをお選びください。(2025/05/05) -
道元禅師のことば 「修証義」入門
坐禅する姿に仏が宿る
『修証義』は道元の主著『正法眼蔵』や仏典から編まれた全五章三十一節の文章です。
本書は一節一節である原典である『正法眼蔵』に立ち帰り解説しており、著者は西洋哲学を専攻していたこともあってグローバルな視点で『修証義』を読み解いています。曹洞宗の常用経典という位置づけではありますが、内容は仏教入門であり私のような他宗派にも得るものが多いでしょう。とくに道元が坐禅する(真摯に生きる)姿に仏を見出したことに納得がいきます。
この度、法蔵文庫に収録され日用の合間にも見直せるようになりました。行住坐臥(日常生活)すべてが修行と思い、折に触れて確かめるのがいいでしょう。(2025/04/11) -
大乗仏典 9 宝積部経典 迦葉品・護国尊者所問経・郁伽長者所問経
初期大乗仏典の宝
大乗仏教といえば『維摩経』に代表されるように寛容的・在家重視の思想を思い浮かべるかもしれません。しかし本書に収録されている三経典は禁欲的・出家重視の内容になっています。空観や本生譚がなければ原始仏典を思い浮かべるかもしれません。
しかしどちらも間違いではなく、それぞれの立場で「我らこそ仏教の正統(大乗仏教)である」と宣揚したといえます。そして『維摩経』や『法華経』を補完する作品群といえるでしょう。
一般的な大乗仏典は甘いと考える方にお勧めです。(2025/03/23)
復刊リクエスト投票
インド留学僧の記
【著者】宮坂宥洪
『般若心経の新世界』(こちらもリクエストしてます)ともに復刊してほしいです。(2025/06/18)
般若心経の新世界 インド仏教実践論の基調
【著者】宮坂宥洪
著者は一般向けに『真釈 般若心経』(角川ソフィア文庫)も著わしていますが本書の価値も廃れていないと考えます。(2025/06/14)
仏教への道
【著者】松本史朗
できれば法藏館文庫に収録してほしいです。(2025/05/29)
ダキニ信仰とその俗信
【著者】笹間良彦
稲荷信仰(同著者の『日本人ときつね』)にも通じる荼枳尼天信仰の基本文献であり復刊を望みます。(2025/05/27)
喜ばしき知恵(河出文庫 ニ1-1)
【著者】ニーチェ 著 村井則夫 訳
『ツァラトゥストラ』は10訳以上存在するそうですが、対になる『知恵』も複数訳存在するのが好ましいです。とくに村井氏は同文庫の『偶像の黄昏』でも優れた仕事をしており復刊を望みます。(2025/05/13)
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