大絶画さんのページ
レビュー
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偶像の黄昏/アンチクリスト
鉄槌はどこに落ちたか
『偶像の黄昏』『アンチクリスト』ともにニーチェ最晩年の作品です。筆が乗っていたのか毒舌タレントの批評を聞いているような気分にすらなります。しかし2年後、ニーチェは狂気の深淵に沈むことになります。
彼はこれらの作品で西洋の価値観とくにキリスト教道徳を否定していますが、むしろニーチェにこそキリスト教道徳が必要だったのかもしれません。彼自身、キリスト教道徳を否定してもキリスト(イエス)そのものは否定していないように思えます。そもそも彼自身、自らが依って立つ価値観を壊して生きられるほどの「超人」ではなかったのです。
皮肉にも西洋的価値観を破壊するために振り下ろされた鉄槌はニーチェ自身を砕くことになりました。本書の読者はくれぐれも注意されますよう。
最後に西尾氏の翻訳に触れます。簡単な注は()で挿入されており、文体もふてぶてしさを感じられ、ある種の心地よさすらあります。ぜひ書店などで読み比べて自分に合ったものをお選びください。(2025/05/05) -
道元禅師のことば 「修証義」入門
坐禅する姿に仏が宿る
『修証義』は道元の主著『正法眼蔵』や仏典から編まれた全五章三十一節の文章です。
本書は一節一節である原典である『正法眼蔵』に立ち帰り解説しており、著者は西洋哲学を専攻していたこともあってグローバルな視点で『修証義』を読み解いています。曹洞宗の常用経典という位置づけではありますが、内容は仏教入門であり私のような他宗派にも得るものが多いでしょう。とくに道元が坐禅する(真摯に生きる)姿に仏を見出したことに納得がいきます。
この度、法蔵文庫に収録され日用の合間にも見直せるようになりました。行住坐臥(日常生活)すべてが修行と思い、折に触れて確かめるのがいいでしょう。(2025/04/11) -
大乗仏典 9 宝積部経典 迦葉品・護国尊者所問経・郁伽長者所問経
初期大乗仏典の宝
大乗仏教といえば『維摩経』に代表されるように寛容的・在家重視の思想を思い浮かべるかもしれません。しかし本書に収録されている三経典は禁欲的・出家重視の内容になっています。空観や本生譚がなければ原始仏典を思い浮かべるかもしれません。
しかしどちらも間違いではなく、それぞれの立場で「我らこそ仏教の正統(大乗仏教)である」と宣揚したといえます。そして『維摩経』や『法華経』を補完する作品群といえるでしょう。
一般的な大乗仏典は甘いと考える方にお勧めです。(2025/03/23) -
大乗仏典 4 法華経 I
精密な法華経
法華経とくに鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』は『般若心経』に次いで読まれた経典であり、『維摩経』と並ぶ仏教文学の最高峰、アジア思想にも影響を与えてきました。サンスクリット(梵)語原典を現代語訳で読みたいという方も多いと思います。
さてサンスクリット語原典の現代語訳としては岩波文庫の坂本・岩本訳、岩波書店の植木訳は手に入りやすいです。前者が歴史的背景が押さえてあり・羅什訳との対比が便利ですが文法に間違いがある。植木訳は文法が確かで掛詞もしっかり訳されていますが自説や自宗に対するこだわりが強いように思います。
そこで中公文庫版ですが羅什訳を中心にまとめつつも漢訳三本・梵訳・チベット訳と各種テキストを比較しており内容も確かで中立な訳になっています。注釈で歴史的背景や羅什訳との違いも押さえていますから、しっかりとサンスクリット語原典と向き合いたい方にお勧めです。(2025/03/15) -
理趣経
生命の肯定
仏教とくに本経を含む般若経典には虚無主義・厭世主義という印象を持たれる方が多いと思います。しかし否定の否定(二重否定)が強い肯定を表わすように『理趣経』は密教の精神である生命の肯定を表わしています。
さて『理趣経』には「セックスを肯定したお経である」という印象を持つ方がいます。それは経文の表面をただ眺めるからで本質は世俗の欲望を超えた大楽の道を示しています。
本書では『理趣経』の歴史的な背景そして深層を解説し、ありのままの生命を肯定する密教の精神が説かれています。
現代では個人の欲望が肯定されます。しかし多くの人は我欲に振り回されることに疲れているはずです。いま一度『理趣経』に説かれている大楽(欲望を超えた欲望)を見直す時なのかもしれません。(2025/02/28)
復刊リクエスト投票
般若心経の新世界 インド仏教実践論の基調
【著者】宮坂宥洪
著者は一般向けに『真釈 般若心経』(角川ソフィア文庫)も著わしていますが本書の価値も廃れていないと考えます。(2025/06/14)
仏教への道
【著者】松本史朗
できれば法藏館文庫に収録してほしいです。(2025/05/29)
ダキニ信仰とその俗信
【著者】笹間良彦
稲荷信仰(同著者の『日本人ときつね』)にも通じる荼枳尼天信仰の基本文献であり復刊を望みます。(2025/05/27)
喜ばしき知恵(河出文庫 ニ1-1)
【著者】ニーチェ 著 村井則夫 訳
『ツァラトゥストラ』は10訳以上存在するそうですが、対になる『知恵』も複数訳存在するのが好ましいです。とくに村井氏は同文庫の『偶像の黄昏』でも優れた仕事をしており復刊を望みます。(2025/05/13)
プリセラピー パーソン中心/体験過程療法から分裂病と発達障害への挑戦
【著者】ゲリー・プラゥティ著/岡村達也・日笠摩子訳
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