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レビュー
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新数学シリーズ 経済のための線型数学
忘れられた経済数学の名著
この本は書かれてから10年以上、だれもが認める名著であった。その後、経済学の流れが変り、経済が多数の変数の関係であることが忘れられ、実質的に一財モデルが主流になると、次第に忘れられてきた。しかし、New Consensus Macroやその背後にあるRBC理論・DSGE理論の問題点に人々は気づきつつあり、本書を必要とするような経済学の時代がもういちどやってくるだろう。
本書のよさは、すべてが初等的推論によって構成されていることである。ここで「初等的」というのは、やさしいという意味ではなく、微積分学の知識を必要としないという意味である。むかしは中学校でも習った一次の連立不等式を例とする「序論的考察」から始まり、帰納法を積み重ねてどんな高級な定理をも初等的に証明してしまうという妙技が展開されている。じっくり時間を掛けて読めば、数学の楽しさも分かってくる。
本書に取り上げられている諸定理は、理工系の線型数学の教科書にはまず出てこない。それだけ特殊ともいえるが、理工系の諸君が線型不等式のもつ微妙な構造に気づかずに終わってしまうのはもったいない。Stiemkeの定理、Minkowski-Farkasの定理は、凸多面体論の基礎でもあるし、Tuckerの定理の微細な構造には驚きを隠せない。
経済学では、これもいまはほとんど忘れ去られている非代替定理もきちんと証明されている。これはSamuelsonが2次元で発見し、KoopmansとArrowが一般化したもので、代替定理・非代替定理などと呼ばれているが、より深くは最小価格の存在定理である。
残念なのは、古本でも本書があまり出回らなくなってしまったことだ。持っていられるなら、世のため・人のためと思って、ぜひ古本屋さんに持ち込んでください。
☆これはamazon.co.jpにわたしが投稿した書評です。最近は、古本としての出物も少なくなっており、復刊を待ち望んでいます。一財モデルに収束していった経済学も、リーマン・ショック以来、方向転換の模索が続いています。本書の復刊は、そうした動きを助ける効果ももつでしょう。(2015/07/12) -
複雑系経済学入門
復刊されました。
著者の塩沢由典です。おかげさまで、昨年12月に電子出版で復刊されました。出版元、表題などは元通りです。リクエスト、ありがとうございました。(2013/02/16)
復刊リクエスト投票
市場の秩序学―反均衡から複雑系へ
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近代経済学の反省
【著者】塩沢由典
大学院生で経済学の理論を研究している少数の学生は、なんとか読みたい・手元におきたいと探していて、ときどきわたしの方にも問い合わせがきます。しかし、わたしの手元にも残部がなく、復刊してくだされば幸いです。いま投票数は10票程度ですので、前途が長いことはよくわかっています。
復刊にいたるとしても、日経新聞社からは無理だとおもいます。どこかの出版社に版元を変える以外になでしょう。そういうことが可能でしょうか。(2006/04/26)