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アレックスさんのページ

レビュー

  • 火の子

    松林清明

    大人になって読み返したい本

    小学校6年生ぐらいだったとおもいます。知り合いの家にお正月に挨拶にいくという親にくっついていって、その家の娘さんの書棚にあったこの本が気になり、読ませてもらいました。帰れなくなりました。どうなるのか知らないわけにはいかないとおもいました。わたしに根負けして、本をくれたお姉さんにありがとう、と思いました。燃える炎の表紙、不幸な生い立ちの子ども、現実世界とファンタジー世界の往復、そして衝撃の結末。非常に印象深い本でした。

    子どもにこういう本を読ませることを、ちがう、だめ、という親がいまは多いんじゃないかとおもいます。ハッピーエンディングでもないし世間的な常識とは違うところがある。わたしもそれは同意するところも一部あります。ひとの運命は親から受け継いだものだけでは決まらないから。火の子は火の子の修行をしたあとで、つよくなってまた現実世界に戻ってきてほしかった。どこか自己憐憫的なものを感じさせ、いやな気になるところもあります。でも、作家はどういう気持ちでこれを書いたのだろう、と思います。そういうことをつきつめて考えることができる、じゃあこの子をどうしたいの、と作家と自分の対話を想像できる、そういう本って児童書には、すくないなとおもってました。子どもを子ども扱してる、足りないところはいっぱいあるけど、考えることのできる人間、不幸や矛盾に気づいている人間なのに、児童書って子どもをばかにしてる気がするときあるな、って。この本にはなにか手加減しない、ほんとうの気持ちを語っている人がいるなとおもいました。

    といったことを、もう何十年も経って書ける(読み返したわけでもないのに)本って、すくないです。復刊して議論してほしい、子どもだけでなく大人が。復刊されたら、書評を書きたいです。そういう人がきっと、確実に存在する本だと思います。(2021/03/01)

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