復刊ドットコム

新規会員登録

新規会員登録

T-POINT 貯まる!使える!

l-nさんのページ

レビュー

  • 名探偵ホームズ・シリーズ

    コナン・ドイル 原作 / 山中峯太郎 訳

    天晴な書き換え。ホームズ譚全作品に及ぶ

    この全集は当初、同社の「世界名作探偵文庫」の一部として刊行されていたが余りの人気に独立して「名探偵ホームズ全集」となったものである。
    全部で20巻ある。巻数の順序に読むと話の内容が繋がらないと云うのは有名な事。上記、「文庫」の品切れになった巻から順に番号を付けていったからだという。
    しかし、そのようの混乱があっても学校図書館などでは子供たちは奪い合う様にして貪るようにして読んで居たという。幾ら当時読むものが少なかったとは云え図書館には他の本もあったにも関わらずである。兎に角面白いのである。大人向けのキチンとした訳とは違った天衣無縫の書き直しが独特の言葉遣いと相まって子供にわくわく感を与え最後まで読まずにおられない気持ちにさせてしまうのだろう。
    現在の大人の目で見ると、無論ドイルの原作とは確かに起こる事件や主な登場人物等は同じいだが作品の感じが全然違う。そう、ドイルの作を元に山中峯太郎が当時の日本人の心で新しく紡ぎ直した物語なのだ。正確である事を第一とする考え方では排除されるべき作品かも知れない、しかし、日本人が日本人の魂と(当時の)日本人の生活を鑑みて地方の少年にも判り易面白くと独自の世界を繰り広げたのだ。成程、今児童にそのまま与えるのは問題かも知れない。然し、日本人が受け入れてきた「面白い物語」として弁えた者が読むには一向に差し支えないし寧ろ一読を勧めたい。
    挿絵も当時の少ない情報で苦労した跡がしのばれる。表紙絵は途中で変更になっている、初期の毒々しい画も捨てがたいし後期の典型的な当時の児童書向けの画も捨てがたい。
    後年の「ポプラ社文庫」(三六判)では巻数が10冊に減ってしまった上に別人の手で文章そのものも改変されている箇所が幾つもある。是非「全集」版で20冊全部を読む事を勧める。(2014/05/25)

  • 南総里見八犬傳 全6巻(未完)

    滝沢馬琴(現代語訳/羽深律)

    旧岩波文庫版の完訳

    予定は全十冊で六冊目の巻末にはその宣伝も出ている。が六冊目で長く中絶の儘である。
    いわゆる、現代語訳と称するものは、その多くは抄訳やダイジェストである。中には訳文よりもおのれの意見を書いた部分が多いなどという本もある。
    児童書などは原本が長いために端折ってありそのために設定の一部を改変しているものも多い。
    別に「全訳」と称するものが他社より別訳で刊行されているが訳者が専科ではない所為か遺憾の点が少なくない、即ち(1)馬琴の序、跋などは、一番初め序以外は収録していない。(2)原文とは別の箇所で切って章立てをしている。(3)単位や時間などをいきなり現代のものに置き換えている。などの問題点があり更には羽深訳と比べると誤訳とすべきところ不適訳とすべきところなど遺憾の点も少なくない。
    この羽深訳は、原本の文字遣いなども出来る丈いかし分り難いものは振り仮名で処理するなどをしている。
    底本は旧岩波文庫版全十冊。途中から日本名著全集に収録(八犬伝は全3冊)の覆刻を参照している。
    既刊は6冊で底本一冊が訳書一冊となっている。この後厚冊の第七冊、第九冊が待っている。須く全書の翻訳を刊行して欲しいと思う。挿絵は元版の四冊目までは門野流氏のものであるが、難しければ全て馬琴本の挿絵をその儘覆刻し、説明の文字を口語訳して画の外側に配置すれば良いだろう。判型は文庫判では挿絵を収録するとやや小さいと思われるのでB6判あたりが良いと思われる。
    現在、多くの日本人に原文をその儘与えても意味を解する事すら難しいだろうと思う。が、八犬伝の面白さは端折ってしまっては半減以下のものになってしまう。優れた完訳が必要される所以である。未刊の箇所も含めて全書の刊行を心待ちにするものである。(2013/08/12)

T-POINT 貯まる!使える!