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日下三蔵セレクト SFフェア 第3回

日下三蔵セレクト SFフェア 第3回
今週は新井素子さんの作品をお勧めしたい。1976年にSF専門誌「奇想天外」が創刊されてから立て続けに登場した新たな書き手は、「日本SF第三世代」と呼ばれているが、同誌の第一回新人賞を受賞した新井素子は、その先陣を切った存在である。しかし、デビュー時に高校生(!)だったため、年齢は第三世代作家の中でももっとも若い。
「奇想天外」からは、夢枕獏、山本弘、谷甲州、牧野修、しばらく休止していた新人賞を再開した「SFマガジン」からは、野阿梓、神林長平、岬兄悟、大原まり子、火浦功、水見稜、探偵小説誌「幻影城」からは、栗本薫、田中芳樹らがデビューしている。

新井作品は若者の話し言葉を大胆に取り入れた文体と軽快なストーリーテリングで注目され、現在のライトノベルの源流と目されることもあるが、SFとしては古典的なアイデアを効果的に活用しながら、骨太なストーリーを提示しているものが多い。

一週間後に隕石と地球が衝突する世界を舞台にした異色の終末SF『ひとめあなたに…』(創元SF文庫)、作者自身が活躍するメタフィクションのSFコメディ『…絶句』(ハヤカワ文庫)、緊密な構成で超能力者の孤独を描いたSFサスペンス『あなたにここにいて欲しい』(ハルキ文庫)、移民惑星が滅亡するまでを壮大なスケールで描き第二十回日本SF大賞を受賞した本格SF『チグリスとユーフラテス』(集英社文庫)等々、傑作が目白押しだ。
いつか猫になる日まで グリーン・レクイエム <新井素子SF&ファンタジーコレクション 1>

新井素子 著 / 日下三蔵 編

  • 本体価格:2,700 円(税込円)

  • 柏書房の《新井素子SF&ファンタジーコレクション》は、品切れになっていた初期作品を合本にし、関連する短篇や資料などを加えて再編集したもの。
    第一巻には著者の最初の長篇『いつか猫になる日まで』、代表作のひとつである青春SF中篇「グリーン・レクイエム」、その続篇の長篇『緑幻想 グリーン・レクイエムII』の三本を収録。新井さんは文庫版、新装版などが出るたびに、あとがきを書くことで有名だが、このシリーズでは、収録作品の既刊のすべてのあとがきを巻末に収めた。
    私は自分の復刊した本を買えば、既刊を古本で探さなくても済むようにしているつもりなのだが、読者としては、あとがきのために全バージョンを買っていたので、こういう本があればいいなと、かねてより思っていたのだ。幸い、新井ファンの皆さまからは、ご好評をいただいて、ホッとしている。
    扉を開けて 二分割幽霊綺譚 <新井素子SF&ファンタジーコレクション 2>

    新井素子 著 / 日下三蔵 編

  • 本体価格:2,700 円(税込円)

  • 第二巻には異世界冒険SF『扉を開けて』とSFコメディ『二分割幽霊綺譚』に加え、単行本未収録短篇「斉木杳の憂鬱」を収めた。いずれも第13あかねマンションが舞台として登場する。他に、『扉を開けて』がアニメ映画化された際の出崎哲氏との対談、『二分割幽霊綺譚』がマンガ化された際に雑誌に掲載されたインタビュー、山本弘氏が同人誌の新井素子特集に寄稿した作家論「扉を開けて、目を開けて」などを収録。
    ラビリンス〈迷宮〉 ディアナ・ディア・ディアス <新井素子SF&ファンタジーコレクション 3>

    新井素子 著 / 日下三蔵 編

  • 本体価格:2,700 円(税込円)

  • 第三巻には、『扉を開けて』と同じ世界を舞台にしたSFファンタジー『ラビリンス〈迷宮〉』と『ディアナ・ディア・ディアス』の二作に加えて、短篇「週に一度のお食事を」「宇宙魚顛末記」を収録。第一巻と分割された形ではあるが、作品集『グリーン・レクイエム』の三篇は、すべて収めることが出来た。他に、星新一氏のインタビュー、友成純一氏の新井素子論など。
    このシリーズでは、シライシユウコさんが各作品のモチーフを散りばめながら、並べると横に繋がる素敵なカバー画を描いてくれました。
    影絵の街にて

    新井素子 著 / 日下三蔵 編

  • 本体価格:1,400 円(税込円)

  • 新井素子は1978年のデビューから二十年以上、短篇作品の少ない作家だった。短篇を依頼されても構想が膨らんで中篇や長篇になってしまうというのだから仕方がない。
    2006年から「小説すばる」に連載したショートショートで短篇のコツを会得(?)してからは、コンスタントに作品が発表され、『イン・ザ・ヘブン』『この橋をわたって』(新潮文庫)、『ゆっくり十まで』(角川文庫)といった短篇集にまとまっている。
    だが、2000年以前の短篇は、品切れで手に入らなくなっていたものや、そもそも本にすらなっていないものが多く、いっそ全部集めてしまえ、と思って作ったのが、竹書房文庫の《日本SF傑作シリーズ》で編んだ『影絵の街にて』である。文庫化されていなかった連作ショートショート集『季節のお話』『ちいさなおはなし』を第一部と第二部にそのまま収め、初期の少女小説誌に発表された作品六篇を第三部、SF専門誌やSFアンソロジーに発表された作品四篇を第四部に収めた。新井さんのコアなファンをターゲットにしつつ、新井素子入門の一冊にもなるように、欲張って作品を詰め込んだ一冊。
    星へ行く船 <星へ行く船シリーズ 1>

    新井素子

  • 本体価格:1,400 円(税込円)

  • 出版芸術社から復刊された《星へ行く船》シリーズは私の編集ではないが、コバルト文庫で新井素子の人気を不動のものとした宇宙SFを完全版として再編集したもの。各巻に書下し短篇が付く豪華仕様で愛蔵版に相応しい内容となっている。
    まぜるな危険

    高野史緒

  • 本体価格:1,700 円(税込円)

  • 高野史緒は1995年、第六回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補になった『ムジカ・マキーナ』(現在はハヤカワ文庫)が刊行されてデビュー。ミステリの手法を駆使した歴史改変SFを得意としている。2012年、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の続篇を本格ミステリに仕立てた『カラマーゾフの妹』で第五十八回江戸川乱歩賞を受賞。
    2013年に私が河出書房新社で編んだ傑作揃いの第一作品集『ヴェネツィアの恋人』が品切れで、ご紹介できないのが惜しいが、続く第二短篇集『まぜるな危険』も凄まじいクオリティ。ロシア文学とSFとミステリを融合させた作品ばかりをまとめたもので、高野史緒色全開の傑作集となっている。
    グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船

    高野史緒

  • 本体価格:940 円(税込円)

  • 文庫書下し長篇『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』は、並行世界テーマの青春SFとして出色の一冊。品切れだが、原型中篇「グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行」は創元SF文庫の《年刊日本SF傑作選》『おうむの夢と操り人形』に入っているので、ぜひ併せて読んでいただきたい。
    ビブリオフォリア・ラプソディ あるいは本と本の間の旅

    高野史緒

  • 本体価格:1,700 円(税込円)

  • 最新短篇集『ビブリオフォリア・ラプソディ あるいは本と本の間の旅』は、「本を書くこと」と「本を読むこと」をテーマにしたSFを集めたもの。自由な読書が禁じられた世界を描くディストピアSFから、ビブリオマニア(蒐集狂)が幻の古本屋に迷い込む幻想譚まで、さまざまなスタイルで本についての物語が描かれている。すべての本好きに激烈にお勧めしたい一冊。
    わたしは孤独な星のように

    池澤春菜

  • 本体価格:2,100 円(税込円)

  • 池澤春菜は十代でデビューして三十年近いキャリアを持つ人気声優だが、池澤夏樹を父、福永武彦を祖父に持つ文学者の家系で、凄まじい読書量を誇るSFファンでもあった。2000年代半ばから書評家として頭角を現し、2013年に日本SF作家クラブに入会。その見識を買われて2020年からは同会の会長を務め、組織改革に辣腕を振るった。
    さらに翻訳から堺三保さんのSF映画「オービタル・クリスマス」のノベライズを経て創作も手がけるようになる。その最初の成果が、第一作品集『わたしは孤独な星のよ うに』である。
    時にユーモラス、時にシリアスと変幻自在な語り口は新人離れしているし、ストーリーも人間とは何か、人類とは何か、といった大きなテーマを描いた本格SFが多い。恐 るべき「大型新人」の登場といえるだろう。
    回樹

    斜線堂有紀

  • 本体価格:1,600 円(税込円)

  • 新鋭枠でもう一人、斜線堂有紀をご紹介しておきたい。ミステリ、恋愛小説、SFの各ジャンルを横断しながら、企みに満ちた作品を書き続けている作家である。ミステリ の分野では、早川書房から出た『楽園とは探偵の不在なり』で注目され、次々と力作を発表しているが、近年はSFにも力を入れている。
    『回樹』は「SFマガジン」掲載作を中心にした作品集。SFならではの設定で犯罪と恋愛を描いたものが多く、著者の個性が横溢した傑作である。
    本の背骨が最後に残る

    斜線堂有紀

  • 本体価格:1,700 円(税込円)

  • 『本の背骨が最後に残る』は井上雅彦編のオリジナル・アンソロジー《異形コレクション》の掲載作品をまとめた一冊で、ジャンルとしては幻想小説、ホラー小説の作品集だ が、突き抜けたアイデアの作品が多く、結果として読み味はSFに近くなっている。早川書房の名叢書《異色作家短篇集》のような短篇がお好きな方には、断然のお勧めです。

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