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レビュー

  • 月の裏まで走っていけた

    雨森零

    残念な名作

    学生時代、この本に出会って感動して購入しました。
    それ以来、何年かに一度、心が折れそうになって、どうしたらいいか分からなくなった時に取り出して、読んでいる愛読書です。
    いい本はいろいろありました。しかし、たいていが一度読めば、それっきりになってしまうものですが、この本は違う。何度でも読めるし、読みたくなります。受賞作でありながら、文庫本にもならず、一部では注目されるも著者は新作を書かなかったこともあり、その後に来た妙な「J文学」ブームでも取り上げられなかった、残念な作品です。

    僕は順番が逆なのですが、この作品を読んだ後に、文藝賞を受賞したデビュー作「首飾り」を読みました。個人的には、この作品の方が好きです。「首飾り」は(おそらく)著者の実体験にかなり忠実に書かれた物語だと思われます。そして「月の裏〜」は、そこで描かれたものの世界観を変えて、さらに再構築を行った作品です。「首飾り」を読んだ人に分かるように言うと、もし3人が違う世界で違う結末を向かえるならばーいや、著者の中では仮定の話ではないのかもしれません。とにかく、もし「首飾り」を読んだなら、「月の裏〜」を読めば、「首飾り」から別の何かを感じてしまうと思います。

    作品の中でも言われていますが、著者はもう3冊目も書くことはないと思います(詳しくは書けませんが、信憑性の高い情報です)。2作品、読んだ人には分かるかもしれません。確か「首飾り」で言われているように、主人公は彼らや言葉を忘れるために、日本を離れました。そして実際に著者も日本を離れました。(2013/01/17)

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