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「数理解析学概論」新訂版序文の人。
レビュー
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多変数の微分積分学15章
微分積分の初学者が本格派の本の前に読むと良さそうな本
熊原啓作先生の15章シリーズで, この本だけレビューを書いていなかったせいか, 絶版になってしまった. 良い本だと思っていたのと, 多変数のほうにもレビューを書いてほしいとリクエストされていたのと, 復刊して広く読まれてほしいので, 少なくとも言えることを申し上げておきたい.
まず, 線型代数の初歩(2, 3次の行列・行列式・線型写像とその幾何学的意味)や 集合 の初歩(集合族の和集合・写像・逆写像)を理解しておく必要がある. 位相の用語(内点・境界点・集積点・開集合・閉集合)にも慣れていると理解が深まろう. これらについては柴「複素関数論」のレビューにも解説を書いておいたので参照されたい. 一様連続の定義も知っておくと陰関数定理の微分積分法における古典的証明の細部まで追えられる. 偏微分方程式の紹介もありベクトル解析までを例を挙げながら図説も交えて標準的に解説している. 多変数の微分積分の初学者には「キーポイント 多変数の微分積分」もおすすめしたいが, 本書は, 数学的理論を学びたい方には架け橋となる本だと思う.
なぜヘッシアンの符号で2変数関数が極値をとるかを例で示していて, 平面領域の点(x_0, y_0)の近傍での2変数C^2級f(x, y)が(x_0, y_0)で極値をとるための充分条件において:
f_xx(x_0, y_0)f_yy(x_0, y_0)−(f_xy(x_0, y_0))^2>0でありf_xx(x_0, y_0)>0(<0)
ならば自動的に
f_yy(x_0, y_0)>0(<0)
になることを, 証明に使う具体例で明言しているのはかなり貴重である.
なお第6章(平面曲線の章)では任意の実数p, qに対して
|p−q|≧|p|−|q|
となることを用いている. これは解析学において. よく暗黙の了解で既知とするが, 三角不等式
|p+q|≦|p|+|q|
より
|p|=|(p−q)+q|≦|p−q|+|q|
であることによる.
厳密性の高さと直観的なわかりやすさの均衡がとれている. 証明が長く難しくなる定理には直観的な説明がある一方, 厳密に証明できる場合は証明が付いていることが多い. また直観的に自明な定理の証明は省略して話題を広くしている. 幾何学 とのつながりもわかる. いきなり本格的な解析入門を始めるより, 段階的に本書を読むと良いと思われるので, ぜひ復刊してほしい.
少なくとも高度な数学には疲れた私にはちょうどいい本であった.
(Amazonから転記)(2021/08/20)
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ワードパワー英英和辞典
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