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  • ムジナ 全9巻

    【著者】相原コージ

    たった500文字ではこの作品の魅力は書き切れません。

    ものすごくざっくり書くと天才作家の奇跡的な名作だから。

    もし復刊されたら、嘘でも何でもなく観賞用・保存用・読んだことない人に貸す用で最低でも3セットは買いますよ!(2020/06/28)

レビュー

  • ムジナ 《完全版》 全5巻

    相原コージ

    【ムジナ考】

    相原コージ著『漫歌〜最終派』に収められている「正しい」という作品で、相原コージはこのように呟いている。

    ・ロック お笑い
    ・格闘技 エロ
    ・この4つが全部好きな人は、
    ・正しい。

    この独白で相原コージは、自身や己の作品に一貫して宿るイズムを明示したと同時に、読者に対して相原コージとその作品を享受し愛せるかどうかの踏み絵を提示した、と言っても過言では無い。即ち「自分はこうだ!お前はどうだ?」と。

    実際、相原コージの作品にロック・お笑い・格闘技・エロは欠かせない核だ。

    例えば『文化人類ぎゃぐ』や『コージ苑』、『かってにシロクマ』、そして『サルでも描けるマンガ教室』など、漫画家デビューを果たした80年代からギャグ漫画家として人気を博した90年代初期の作品の多くは、ロック的な鋭い批評性に富みつつもシュールなギャグやボケ・ツッコミのお笑い要素が色濃く、また一方『漫歌』シリーズや『真・異種格闘大戦』、『下ネタで考える学問』、そして『Z 〜ゼット〜』など、漫画界の重鎮となった90年代後期からベテラン漫画家の域に達した00年代以降に発表された作品の大半は、それまでより一層刺激の強い格闘シーンあるいは際どいエログロ表現が顕著である。

    ただ、総じて言えることは、上記作品のどれもが相原コージ漫画の4つの魂=ロック・お笑い・格闘技・エロをその一部しか含んでいないということだ。

    しかし、数ある相原コージ作品の中に、これら4つのエッセンスを全て完璧に兼ね備えた上、さらにそのバランスも極めて優れた、まさに究極に「正しい」と言える奇跡的な作品が1つだけ存在していることを多くの人は知らない。

    それが、忍者漫画『ムジナ』なのである。

    巻頭の序文はこうだ。
    「群雄割拠する戦国の世 
     その陰には
     暗中飛躍する
     忍者の姿があった
     人知れず
     死を賭して
     闇から歴史を動かした
     陰の男達
     そんな秋霜烈日な宿命を
     生きる彼らの中に    
     独り異端の忍者があった
     彼の目的は只ひとつ 
     ──生きぬくこと──」
    まさに、風を呼び火を呼ぶ忍者浪漫の幕開けにふさわしい名イントロダクションと言えよう。

    この作品は相原コージのプロデビューからおよそ10年が経過しようとしていた1992年、小学館発行の週刊ヤングサンデー誌上にて連載を開始された、相原コージにとって初の本格的なストーリー漫画である。緻密に計算された伏線とその回収、スピーディーに二転三転する展開、一度読み始めたら最後まで一気に読まずにはいられない一話ごとの引きの強さなどなど、まさに職人技がギラリと光る約2000頁の全9巻(ヤングサンデーコミックス版)だ。一漫画作品としてその構造や技巧が並外れて優れているのはもちろん、特筆すべきはその中身・内容で、相原コージはこの作品に極度にシリアスな反権力、反体制的テーマを持たせつつ、実験的な手法で狂おしいほど愚直に笑いを求道しながらも、容赦のない暴力と殺人描写、あけすけな性描写で命の儚さ、生き抜くことの尊さを見事に描ききった。相原コージを相原コージ足らしめ、またその愛読者を愛読者足らしめる4大要素、即ちロック・お笑い・格闘技・エロが相互に引き立て合い高め合うような絶妙な配合で、全編を通して万遍なく散りばめられているのだ。

    相原コージのキャリアにおいて『ムジナ』以前の作品は言わば『ムジナ』を産み出すために試行錯誤された実験の集積であり、また『ムジナ』以降の作品は『ムジナ』によって産み出された遺産の痕跡である。どれもが『ムジナ』を超えることはなく、また超えられるはずがない。何故なら『ムジナ』には相原コージの全てが注ぎ込まれている、つまり相原コージそのものが具現化した、まさに頂点とも言える作品なのだから。

    斯様に『ムジナ』は、相原コージ作品の中でも他と一線を画す特別な作品であり、また漫画業界という魑魅魍魎が跋扈する修羅の世界に於いても他に類を見ない唯一無二の大傑作であり、同時に、これまで幾度も実験・失敗・成功を繰り返しながら1つとして類似した作品は描かず、しかも近年に至っては自身の病を、そして今後もしかしたら己の死までをも作品に仕上げかねない危うさと狂気性を秘めた相原コージが、まさに「天才」であることを示す証なのである。

    最後に。

    ・ロック お笑い
    ・格闘技 エロ
    ・この4つが全部ある『ムジナ』は、
    ・絶対的に圧倒的に正しい。

    さて、皆さんは天才・相原コージを、そしてその分身であり、この度遂に《完全版》として見事なる復刊を果たした(いや、ここはムジナらしく「生きぬいてやった!!」と書くべきか)『ムジナ』を愛する資格を有しているだろうか?(2024/10/15)

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