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◆ 書物復権によせて

吉野智博
[荒川区立南千住図書館]

専門書は、図書館の大切な財産です
 読書には、仕事、生活、情報利用、娯楽、余暇利用などのほかに、教養及び学習など様々な目的が存在しています。仕事、生活、娯楽、余暇といった目的も実は、自分が生きていく上での知恵や情報を摑みたい、即ち教養や学習という目的に結びついています。その目的の実現のために、人は直接話を聞く、テレビやインターネット、SNS などから情報を得る、本を読むなどの手段を講じますが、古(いにしえ)より「学びて思わざ れば則(すなわ)ち罔(くら)し、思いて学ばざれば則ち殆(あやう)し」(論語為政第二)と語られてきたように、本を読み、先人の話を聞いて、外からの智を得ないと人は生きていけません。
 本には、実用書や文芸書、文庫などのほかに、入門書、専門書に大別されます。読者の側から見ると、入門書は「易しく」、専門書は「難しい」ということにはなりません。例えば数学の入門書は、数学の専門外の読者にとっては、専門書以上に難しく思えるのです。入門書、専門書の区別は、あくまでも学ぶ人の意欲と到達度によって決まるのです。
 図書館の棚を構築するためには、入門書から専門書に至るまで知の体系化を図ることが重要です。市民には、ベストセラーものを読む人もいれば、図書館員以上に専門書を読んでいる人も多いのです。基本書や古典などは永い期間をかけて売られるものですが、図書館でも同じように長い期間をかけて借りられているのです。借りられないとすれば、そこの図書館は品揃えが悪い、としか言いようがありません。そもそも入門書は大概、全体を俯瞰するかサワリを語って、次のステップはこの本を読め、などと専門書に誘導するものです。自分で学ぶためには、専門書に書かれた新たな知の世界や著者のメッセージと格闘する以外に、自ら知を獲得するすべはありません。こういう本は棚から発見するしかありません。本を売らなければ成り立たない書店には、大型書店以外には限度があります。どこと聞かれれば、図書館でしかありません。これらの専門書が図書館の棚に並ばないとすれば、出版文化を世に広められず、自らモノを考え学ぼうとしている市民の成長を手助けできない、公の知的財産=人が形成されない、地域の自立を遅らすことに繫がるのです。激動する今の社会だからこそ、古(いにしえ)の言葉を受止めて、図書館が何ができるのかを自ら考えるべきではないでしょうか。



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