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不安定からの発想

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ダ・ヴィンチに始まる「飛行の志」を受け継いだ<鳥人間たち>の苦闘の歴史

絶版本だと思い込んでいた本書が、文庫本として2010年に刊行されていることを偶然に知って、念願だった読破を実現しました。 
「飛行の志」が実は「兇暴な夢」であったことを、後継の<鳥人間たち>の苦闘の道のりを紹介しながら、著者は航空力学、機械力学の見地から、人間の営み(人生や社会組織)に踏み込んで考察しています。 
ライト兄弟の有人動力飛行初成功の秘訣が、他者と違って「安定」を放棄したこと、そして「操縦」で制御したことにあったとの指摘に驚かされます。 
更には、「Ⅱ部 安定の思考」の力学的考察(ヘリコプターは皿回し、コマは小宇宙、おっちょこちょいの効用、利け者の条件、ごますりの力学など)に、目からウロコが何度も落ちました。 
考察の一例を引用すると、「デモクラシーの基本は線型システムにあると考えられる。なぜかというと、その原理が不変であり、平等であり、暗黒の存在がない自由を保障しているからである。」(Ⅱ部 201頁)。  
これは、正直者という線型特性を示す部下に親しみ、逆に気心が摑めない非線型特性の部下では何をしでかすか不安でしょうがない上司の気持ちを、著者が代弁してみせたものです。 
「人間生活のよろこびの尺度は、具体的には生活水準の加速度ではないかと考える。生活水準は速度のようなもので、一度向上したらもはや慣れっこになってしまって、変化を感じない。」「生活水準は速度のようなもので、他人と比較しないかぎり、自分の速度を知ることは不可能である。」(Ⅱ部 221頁)
科学者らしい記述が続きます。
「名将の資格は、部下の特性識別とその使い分け、およびタイミングであった。配役がぴったりときまったとき、その演劇は半分成功したといわれるとおりで、あと半分の成功要因は出番の秒読みである。」(Ⅱ部 223頁)
「操縦」「操舵」などの航空用語を、安易に安定を求めてはならないという<人生の処世法>になぞらえるなら、本書を優れたビジネス書、人生哲学の著作として読み解くことが可能です。

2019/01/02