復刊投票コメント一覧

魔王

全2件

動物文学第一人者、故戸川幸夫さん作品でも白眉です。前作「羆風」はコミック化までされる一方、本作が絶版とは実に口惜しい。なお、同著者小児向け「金毛の大ぐま」(絶版)は山形県の話で、北海道雨竜郡が舞台の本作とは別作品です。不条理なボタンの掛け違い繰り返しで、本来平穏な野生生物として一生を終える筈だったのが、人に傷つけられ命がけの反撃や知恵比べを繰り返すうちに、人を殺し喰らうことや人を出し抜くことを愉しみに感じるまで凶暴化していく様は、痛み満載で涙無しでは読めません。人を肉と認識するに至った魔王を初めてたじろがせたのが、たった二人:妻子を惨殺され怒りに燃えてサビ鉄砲一丁向かってきた若者と、見るに見かねナイフ一丁で援護したアイヌの古老だった場面は、示唆に富んだ名シーンです。ついに一頭の退治のために陸軍の大隊まで動員される事態に。そんな中、魔王の行動を冷静に分析し、最終決戦で致命傷の一弾を命中させたのは、父祖何代にも渡りヒグマと対峙してきた、前述のアイヌの古老でした。大正時代の話ですが、昨今の熊被害頻発もあり、全然過去話とは思えません。この傑作を後世に伝えるべく、復刊を切に願います。

2026/05/24

素晴らしいシリーズなのだが、旺文社ジュニア図書館という叢書自体、復刊される見込みがあまりないこと
児童書なので、全集に収録される可能性もないこと
(「戸川幸夫動物文学全集」にも収録されていないはずです)
児童ものには珍しくハードな書き方で、手抜きがいっさいないこと
(人食いグマの幼年期から書き進め、その視点で描写し物語に膨らみを持たせているが、最終的な肯定は決してしていない)
造本や挿画のすばらしさはいうまでもありません

2016/07/09