レビュー一覧

偶像の黄昏/アンチクリスト

全1件

鉄槌はどこに落ちたか

『偶像の黄昏』『アンチクリスト』ともにニーチェ最晩年の作品です。筆が乗っていたのか毒舌タレントの批評を聞いているような気分にすらなります。しかし2年後、ニーチェは狂気の深淵に沈むことになります。
彼はこれらの作品で西洋の価値観とくにキリスト教道徳を否定していますが、むしろニーチェにこそキリスト教道徳が必要だったのかもしれません。彼自身、キリスト教道徳を否定してもキリスト(イエス)そのものは否定していないように思えます。そもそも彼自身、自らが依って立つ価値観を壊して生きられるほどの「超人」ではなかったのです。
皮肉にも西洋的価値観を破壊するために振り下ろされた鉄槌はニーチェ自身を砕くことになりました。本書の読者はくれぐれも注意されますよう。
最後に西尾氏の翻訳に触れます。簡単な注は()で挿入されており、文体もふてぶてしさを感じられ、ある種の心地よさすらあります。ぜひ書店などで読み比べて自分に合ったものをお選びください。

2025/05/05