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日下三蔵セレクト SFフェア 第5回

日下三蔵セレクト SFフェア 第5回
それまで「科学小説」あるいは「空想科学小説」と呼ばれ、探偵小説(ミステリ)の一種として扱われていた国産SFが、いつジャンルとして独立したかは、諸説別れるところだろうが、私見では、科学創作クラブが同人誌「宇宙塵」を創刊し、そこから星新一が作家デビューを果たした1957年(昭和32年)を「日本SF元年」と位置付けたい。
それ以降に登場した「日本SF第一世代作家」は、自ら同人誌「NULL」を創刊した筒井康隆を数少ない例外として、ほとんどが「宇宙塵」を経由してデビューしている。というか、まだ「SFマガジン」も創刊されておらず、SFを読んだり書いたりしようと思ったら、「宇宙塵」に入会するしかない時代だったのだ。
もちろん、既成作家でSFを書く人が皆無だったわけではなく、香山滋、大坪砂男、日影丈吉、都筑道夫らは、55年前後から、積極的にSFを手がけている。探偵作家クラブ内の有志で結成されたグループ「おめがクラブ」は会誌「科学小説」に自作短篇を寄稿し、商業媒体への売り込みを図った。「おめがクラブ」メンバーで、とりわけSF志向が強かったのが矢野徹と今日泊亜蘭で、この二人は「宇宙塵」にも客員待遇で招かれて入会している。
光の塔

今日泊亜蘭

  • 本体価格:1,200 円(税込円)

  • 今日泊亜蘭の長篇SF『光の塔』は、61年から『刈得ざる種』のタイトルで「宇宙塵」に全体の約3分の1に当たる第一部が連載され、62年8月に後半を書き下ろして、東都書房から『光の塔』として刊行された。
    この時点で、本を出していたSF作家は、矢野徹と星新一くらいだが、いずれも短篇集と少年向けの科学解説書である。眉村卓は最初の本が書下し長篇で63年、小松左京は最初の本が63年で最初の長篇が64年、筒井康隆は最初の本も最初の長篇も65年。『光の塔』は専門作家による初の長篇SFとして、日本SF史に残る記念碑的な作品なのである。
    1980年代にSFにハマった私は、目につく限りのSFを片っ端から読んでいたが、『光の塔』も、歴史的な価値のある作品ということで、たぶん古びているんだろうな、と予想して、お勉強のつもりで読み始めた。だが、第一部を読み終わるころには、夢中でページを繰っているのに気付いて愕然。こんなに面白い作品だったのか!
    地球を襲った謎の「絶電現象」を発端に、人類は正体不明の侵略者「光」の猛攻に晒されることになる。オリジナルの造語を交えた「未来の江戸弁」で綴られる物語は、スリル満点の活劇であり、緻密な構成で読者を意外な真相に導く上質のミステリであり、もちろんアイデア満載の本格SFでもある。これが日本のSF作家の長篇第一号なのか、と唖然とすること請け合い。本当に面白い小説は、時間を軽々と飛び越えるものです。
    最終戦争/空族館

    今日泊亜蘭 著 /日下三蔵 編

  • 本体価格:1,100 円(税込円)

  • ちくま文庫で私が編んだ『最終戦争/空族館』は、かつてハヤカワ文庫から出ていた著者の最初の短篇集『最終戦争』(74年)に、新発見の未発表原稿「空族館」を含む単行本未収録作品十五篇を増補して再編集したもの。ショートショートが中心の作品集だが、「科学小説」から江戸川乱歩編集の探偵小説誌「宝石」に転載された「完全な侵略」や、哀切な恋愛SF「カシオペヤの女」など、今日泊さんの強烈な個性が刻印された作品が多く、作家入門としても最適な一冊。
    なお、ちくま文庫の二冊は、七〇年代に「SFマガジン」の表紙を担当していた角田純男さんにカバー画を描いていただくことが出来て、うれしかった。
    海王星市から来た男/縹渺譚

    今日泊亜蘭 著 / 日下三蔵 編

  • 本体価格:1,500 円(税込円)

  • 創元SF文庫で編んだ『海王星市(ルビ:ポセイドニア)から来た男/縹渺譚』は、中篇2篇で構成された連作『縹渺譚(ルビ:へをべをたむ)』と短篇4篇を収めた『海王星市から来た男』、いずれも70年代にハヤカワ文庫から出ていた作品集を合本にし、ボーナストラックとして単行本未収録作品2篇を加えたもの。
    今日泊亜蘭は初代編集長だった福島正実の「既存作家は基本的に起用しない」という方針のため、60年代には「SFマガジン」に1篇も寄稿していない。だが、「宇宙塵」の同人仲間でもあった森優(南山宏)が二代目編集長になると、悠然としたペースで中短篇を同誌に書き始めるのだ。「SFマガジン」初登場作の「海王星市から来た男」は、意外性抜群の侵略SF。SF作家としてのキャリアを探偵小説誌でスタートしている今日泊亜蘭の作品は、叙述トリックを駆使して意外な結末を用意したものが多く、ミステリファンにもお勧めである。
    旧かなの文語体を自在に操って語られる『縹渺譚』は和風ファンタジーの傑作。「縹渺譚」「深森譚」の二部構成で主人公の奇妙な旅が語られていく。ロマンあふれるストーリーと意外な展開の連続で、SF好きの心を掴んで離さないはずだ。
    日本SF傑作選 6 半村良 わがふるさとは黄泉の国/戦国自衛隊

    半村良 著 / 日下三蔵 編

  • 本体価格:1,500 円(税込円)

  • 半村良は日本SF第一世代を代表する作家の一人である。62年の第二回SFコンテストで小松左京と同時に入選してデビューしたが、人情噺志向の作風が科学志向の福島編集長の方針と合わず、60年代には作品をあまり発表していない。
    一時は筆を折ることも考えたというが、編集長が娯楽志向の森優に代わると状況が一変する。71年には堰を切ったような勢いで「SFマガジン」に傑作・力作を寄稿。この年だけで、「戦国自衛隊」を含む中・短篇5篇を同誌に発表している。
    さらに71年11月には1000枚の書下し長篇『石の血脈』を刊行して、SF界のみならず、広く読書家の注目を集めた。第二長篇『産霊山秘録』で泉鏡花賞、人情ものの短篇集『雨やどり』で直木賞を受賞して、半村良はたちまちのうちに第一線の人気作家となった。
    ハヤカワ文庫《日本SF傑作選》第6巻の半村良集には、63年から75年までに発表された傑作12篇を収めた。デビュー作「収穫」、『石の血脈』の原型短篇「赤い酒場を訪れたまえ」、タイムトラベルものの名作「およね平吉時穴道行」、ユーモラスな「農閑期大作戦」、幻想小説の逸品「箪笥」など、半村良の巧さを堪能できる一冊になったと自負しています。
    愛読していた国枝史郎や角田喜久雄の時代伝奇小説の手法とSFとを融合させて、森優の命名した「新伝奇ロマン」というジャンルを開拓した半村良は、『黄金伝説』『英雄伝説』などの「伝説」シリーズや、『闇の中の系図』以下の「嘘部」三部作などを発表していくが、やがて波瀾万丈の時代伝奇小説に本格SFの要素を取り入れた大長篇『妖星伝』を手がけるようになる。
    歴史破壊小説 裏太平記

    半村良

  • 本体価格:1,200 円(税込円)

  • その他の時代伝奇小説には、『慶長太平記』『講談 碑夜十郎』『黄金奉行』『飛雲城伝説』などがあるが、南北朝時代を舞台にした晩年の長篇『歴史破壊小説 裏太平記』は著者没後に単行本が出たきりで、文庫化されないままであった。私はしばらく前から、大衆小説出版の老舗・春陽堂書店で文庫のセレクトアドバイザーを頼まれているの で、この作品を推薦して文庫にしてもらった。週刊誌の連載に加筆修正を加えるはずが、著者の逝去でそれが叶わなかったため、終盤が未整理なのが惜しいが、SFというス タイルで歴史の裏面を描き続けてきた半村さんらしい作品といえるだろう。
    天保からくり船

    山田正紀

  • 本体価格:1,200 円(税込円)

  • 春陽文庫には山田正紀の伝奇長篇『天保からくり船』も入れてもらった。山田さんは日本SF第二世代を代表する作家の一人で、本格SF、冒険小説、ハードボイルド、本格ミステリと、そのレパートリーは幅広いが、早くから時代小説も手がけている。今日泊さんと仲の良かった山田さんは、初めて書いた時代小説の原稿を今日泊さんに見せて、アドバイスをもらったという。
    山田正紀の時代伝奇小説は抜群に面白いのに、なぜか文庫になっていない作品が多く、以前、戎光祥出版で《山田正紀時代小説コレクション》という企画を考えたことがあるが、私の力不足で吸血鬼テーマの傑作『天動説』一冊を出しただけで中断してしまった。
    『天保からくり船』は、この企画が続いていれば、ぜひとも入れたかった一冊。大胆な仕掛けのある作品なのに、Amazonの単行本版販売ページでは、オチまでバラした無粋な内容紹介が掲載されていて頭が痛かった。今回の春陽文庫版では、YOUCHANさんが作品内容を踏まえた素晴らしいカバー画を描いてくれているので、どうぞ、安心してお読み ください。
    フェイス・ゼロ

    山田正紀 著 / 日下三蔵 編

  • 本体価格:1,300 円(税込円)

  • 山田正紀は長篇タイプの作家だが、短篇も上手いオールラウンダーである。ただ、短篇集がまとまる機会のないまま、未収録作品が百篇を超えてしまっているのが、以前から気になっていた。この状況を何とかしたいと思って作ったのが、竹書房文庫の《日本SF傑作シリーズ》で編んだ『フェイス・ゼロ』である。書下しアンソロジーやSF専門誌に発表された作品を中心に、13篇を収録。非常に読み応えのある短篇集になっています。
    航空宇宙軍史・完全版 1 カリスト -開戦前夜-/タナトス戦闘団

    谷甲州

  • 本体価格:1,300 円(税込円)

  • ベテラン枠として、第三世代作家の一人、谷甲州を紹介したい。79年に第二回奇想天外新人賞でデビュー。初期の作品は、大きなスパンでひとつの未来史を構成するシリー ズに属する作品が多い。
    この連作は、長い中断をはさんで、現在は《新・航空宇宙軍史》として再開しているが、旧シリーズは発表順ではなく、作中の年代順に再編集されて、ハヤカワ文庫から『航空宇宙軍史・完全版』として、全5巻で復刊されている。
    各巻に2冊分以上を収めたボリュームと手に汗握るストーリーの面白さもさることながら、このシリーズではミュージシャンでもあるSF評論家・吉田隆一氏の詳細を極めた各巻解説が圧巻です。

    谷甲州

  • 本体価格:1,700 円(税込円)

  • ノンシリーズの作品として、宇宙土木SFと銘打った『星を創る者たち』をお勧めしたい。大阪工業大学工学部土木工学科卒で建築会社勤務という著者の経歴が反映された傑作。水星、金星、火星と、各話ごとに太陽系の惑星の土木開発に従事する宇宙の技術者たちの奮闘が描かれていく。その惑星ならではの悪条件やトラブルを、知恵と勇気で解決していく異色のハードSFなのだ。
    雑誌掲載時から、これ、最後は太陽になるんだろうけど、どうするんだろう……と思っていたが、作者は最終話「星を創る者たち」に、誰もがアッと驚く展開を用意していた。この作品は、SFファンが選ぶ星雲賞の第45回短編部門を受賞している。
    皆勤の徒

    酉島伝法

  • 本体価格:960 円(税込円)

  • 新鋭枠は酉島伝法。2011年に「皆勤の徒」で第2回創元SF短編賞を受賞してデビュー。独特の造語を駆使した文体で綴られるストーリーは、人間の想像力の極限を示したような奇怪なイメージに満ちている。
    デビュー作と同じ世界を舞台にした連作『皆勤の徒』で第34回日本SF大賞受賞、2冊目の著者で初の長篇となる『宿借りの星』でも第40回日本SF大賞受賞と、SFのプロたちもこぞって絶賛する鬼才である。
    デビューから11年で著書5冊という寡作ぶりだが、作品の密度を考えれば納得。とにかく多くの人に読まれて欲しいユニークな作家です。

    ※『海王星市から来た男/縹渺譚』および『星を創る者たち』は出版社在庫切れ(電子書籍のみアリ)

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