読後レビュー
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気取りのない、サラッとした自分史。
この“人間の記録”という通しタイトルのついたハードカバーのエディションは、図書館でよく見かけます。現在は、文春文庫から出ているエディション(『これでいいのだ 赤塚不二夫自叙伝』)が入手しやすいと思います。
つい先日亡くなられた名優・大滝秀治さんも晩年に読まれていたというこの本は、基本、「赤塚不二夫・著」となる本の執筆は他の人にまかせていたという赤塚先生が、近所のスーパー銭湯のロビーに2ヵ月のあいだ通って書き上げたという、正真正銘の“自伝”です。
漫画家として売れっ子、というか時代の寵児となってからのことは、本当にちょっと触れる程度で、この本の中心となっているのは、第二次大戦という激動の時代の中で、激しく翻弄されながら、それでもしっかりとつながっていた赤塚家の人々の強い結びつき、そして国も家も貧しかったその中で、たくましく育ったフジオ少年の成長して行く姿です。
気取ったところも、飾ったところもなく、おだやかであたたかいその筆致から浮かぶのは、ラジカルなギャグに生きた巨匠、ではなく、人と人との機微を丹念に描いて、ついつい泣かされてしまう、そんな人情ギャグの名手でもあった赤塚先生その人です。
この家庭、この両親から、あのギャグの巨匠は生まれたのだ、ということを考えあわせながら読むと、より新鮮な思いをもって感じ取ることができるのではないでしょうか。
ちなみに、現在入手しやすい文春文庫版の巻末には、あの“武居記者”が一文を寄せています。文春文庫版の出版は、先生が亡くなられた後ということもあって、しみじみとした、とてもいい文章となっています。 (2012/12/10)
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