一貫して私小説作家の精神に徹し、志賀直哉直伝の“よく生きる”姿勢を堅持することにより、見事に虚飾を切り捨てた文体を完成して、「凶徒　津田三蔵」「欣求浄土」「異床同夢」「田紳有楽」「悲しいだけ」などの名作を生み出した著者が、適切な対話者を得て、自らの生い立ち、平野謙、本多秋五氏ら僚友と共有した文学的青春を縦横に語り、美術愛好家としての芸術的感興をナイーヴに吐露し、夏目漱石、志賀直哉、白樺派などの文学を通して自らの文学的信条、人生への態度を率直に言明した対談集。1980年出版。（帯解説を転載）
オーナー評価★★★★★★★☆☆☆

【目次】
〔作家の姿勢…阿部昭〕
文章のわかりやすさ　私小説の男らしさ女々しさ　男女関係についての認識　フォニーについて　私小説を書くことの強さと弱さ　宗教的感情について　絵画と小説の長さ　批評について

〔青春今昔…平野謙〕
一枚の写真から　中野重治・伊藤整・尾崎一雄　二葉亭四迷と坪内逍遥　坪内逍遥の細君教育　作品批評の一根拠　実生活と文学作品　学生時代の思い出　社会化された私　転向とその周辺

〔文学と社会倫理…坂上弘〕
都会的ということ　漱石の足どり　肉親感覚と社会倫理　社会倫理は近所づきあい　共産主義運動とエゴイズム　文章・文体・私小説

〔実作者と文芸時評…冨士正晴〕
批評と誤診　衝迫の必要性　酷評という栄養素　志賀直哉の文体　新人の課題　女流の発想　老年の活躍

〔新しい文学と私小説…中上健次〕
正味の小説　レンブラント光線　宗教と唯物

〔わが風土わが文学…小川国夫〕
物をパッと見る　絵と謡曲修行　病的なものへの志向　旧約聖書の世界　二流三流の横行

〔平野謙の青春…本多秋五〕
最晩年の平野謙　高見順への打ちこみ　リンチ共産党事件への底流

〔嘘とまことの美感…平岡篤頼〕
旧制高校時代　入獄体験　書き出すまで　私小説論議　田紳有楽　骨董あれこれ