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レビュー
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蟻塚の中のかぶと虫
— 私設不定期講座 SFの読み方 その22の5の1 ヤング・パースンズ・ガイド・トゥ・ストルガツキー その4 —
ああ、嬉しいことに今日のこの大ホールには凱旋時のような興奮と笑顔があふれてますね。そう、われわれの、というか皆さんの努力のおかげでストルガツキーの『ストーカー』こと『路傍のピクニック』がついに復刊したのです。この機を逃さず怒濤の攻勢をかけ、続く『蟻塚の中のかぶと虫』『波が風を消す』の連続復刊をめざしましょう。
さてそこで今回の『蟻塚の中のかぶと虫』、すでにご存じのこともあるでしょうが、おおまかな読書ガイド的位置づけをすませておきます。一般に、『収容所惑星』『蟻塚の中のかぶと虫』『波が風を消す』の3作は “マクシム・カンメラー3部作 ” と称されています。したがってストルガツキー入門者の方々の中には律儀に『収容所』から読み始めることを考えている人もいるでしょう。悪いことは言いません、やめておきなさい。ガッカリするだけならまだしも、ストルガツキーを嫌いになられたり、こんなもんかと侮られたりしてはたまらないですから。確かに『収容所』は後の2作と背景世界や登場人物が共通していますが、時期的にもジャンル的にもずいぶん異なるものです。あえて強い言い方をすれば、ストルガツキーのもうひとつの極である反体制/諷刺/哲学/幻想文学の要素が強く、プロパーSFのリアルな迫真性に乏しい、ふわふわはっきりしない海のモノとも山のモノともつかない中途ハンパな作品となってしまっているのです。そこにはわれわれが後に大好きになることになるあの人この人あの種族あの惑星が出てきますが、それもまた『蟻塚』『波風』読了後、背景資料の落ち穂拾い的に読めばいいくらいのものでしかありません。いずれ皆さんはそーゆービョーキ、 “ ストルガツキー症候群 ” にかかり、全てのストルガツキー作品を読まずにはいられなくなるでしょうから、最初っから余計な遠まわりをする必要はないのです。
もうひとつ、読書ガイド的に重要なことを。裏表紙のキャッチには「SFミステリ」の文字がありますが、『蟻塚』にSFミステリを期待してはいけません。“ 謎 ”はあっさり終盤で、調査や努力や推理とはカンケーなしに明かされますし、そもそもその失踪と調査自体が単なる狂言廻し的な結構に過ぎないのです。というか、“ SFミステリ ” って何?とわたしなぞは思うのですが。純然たるSF作品をその結構だけから “ SFミステリ ” だとか “ ホラーSF ” だとか “ SFロマンス ” だとか呼称してしまうと、全てのプロパーな傑作とジャンル外シロウトの駄ベストセラーがないまぜになってしまう危険があると思います。極端なハナシ、皆さんだって、例えば “ゆうもあ・みすてり ” なんて銘打ったモノを読みたいなんて思わないでしょう?メディア展開上、商売上の便宜を斟酌してもなお、「SFミステリ」なんて言葉は百害あって一利なし、少なくともこの『蟻塚』に使われるべきではないでしょう。
初級者向けのガイド的講座とはいえ、少し前置きが長くなりすぎているようですね。ですが、SFミステリ云々に関しては、言わば注意を喚起するための予防線としてどうしても必要な気がするのです。というのも、読み始めると皆さんはすぐに、スパイ/探偵ものよろしく、主人公マクシム・カンメラーが上司シコルスキーから失踪人の発見・監視・報告を命じられるシーンにでくわすからです。そのあと53ページまで、場合によっては退屈とも言えるミステリちっくな調査の初動が描かれ、知らない世界の知らない人物知らない事件のファイルを延々読まされることにもなります。もし「SFミステリ」を真に受けて読むと、その謎解き・進展のなさに退屈・イライラを感じ、読み進めるのを放棄してしまう人が出ないとも限りません。ですから、ミステリ仕立てはあくまで装置/結構だということを念頭においておいて欲しいのです。そうすれば、初めてのこのシリーズ世界:<22世紀・真昼>世界の背景情報がすばやくたっぷり効果的に提示されているのに気付き、しょっぱなからノッて読んでいけることでしょう。
(続きはウェブで!w)(2011/03/27)
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